そんな人でも楽しめる、ちょっと不思議なフランス語のお話です。
「今日」というだけなのに、なんでそんなに長いねん
英語で「今日」は、
today
たった5文字です。
ところがフランス語では、
aujourd’hui
長い。
「今日」と言いたいだけなのに、なんだか妙に気取っています。
しかも、この aujourd’hui、歴史をたどるともっと面白い。
ざっくり分解すると、
au + jour + de + hui
という成り立ちです。
jour は「日」。
そして hui は、現在では単独ではほとんど使われませんが、もともと「今日」を意味する言葉でした。
つまり aujourd’hui は、歴史的にはざっくり、
「今日という日の、この日」
みたいな表現なのです。
……。
毎日平凡な日々が過ぎていくのに、
「今日という日の、この日」
いったいどの日やねん。
今日やろ!
そんなに「今日」にこだわるフランス語なのに……
ところが、このフランス語。
別のところでは突然、びっくりするほど大ざっぱになります。
英語では、
I eat.
私は食べます。
I am eating.
私は食べています。
この2つは明確に違います。
中学校で習いましたよね。
「be動詞+動詞のing形で現在進行形!」
テストにもよく出ました。
ところがフランス語では、
Je mange.
これだけ。
「私は食べます」という習慣にも、
「私は今、食べています」という進行中の動作にも、
基本的には同じ Je mange. を使えます。
え?
「今日」はあんなに長ったらしく言うのに、そこは一緒でええんかい!
じゃあ「今食べてる」って、どうやって分かるの?
そこは文脈で判断します。
たとえば、
Je mange tous les matins.
なら、
「私は毎朝食べます」
という習慣。
一方、
Je mange maintenant.
なら、
「私は今、食べています」
となります。
maintenant が「今」という意味なので、それで分かるわけです。
つまりフランス語としては、
「今って言うてるんやから、食べてる最中に決まってるやろ」
ということなのでしょう。
英語のように、わざわざ動詞の形まで変える必要はない。
なるほど。
合理的といえば合理的です。
でも、それなら言わせてもらいたい。
「今日」も、もうちょっと短くてええんちゃうの?
「今まさに食べてます!」なら表現できる
もちろんフランス語にも、進行中であることを強調する表現はあります。
Je suis en train de manger.
「私は今まさに食べているところです」
という感じです。
ただし、英語の I am eating. のように何でもかんでもこの形にするわけではありません。
普通なら Je mange. で十分。
「まさに今やってるんです!」と強調したいときに使います。
スペイン語とイタリア語はどうなの?
ここで面白いのが、同じラテン語をルーツにもつ仲間たちです。
スペイン語なら、
Estoy comiendo.
イタリア語なら、
Sto mangiando.
どちらも「私は食べています」。
英語の I am eating. にかなり近い専用の進行表現があります。
並べてみると、
英語:I am eating.
スペイン語:Estoy comiendo.
イタリア語:Sto mangiando.
フランス語:Je mange.
フランス語だけ、
「食べてるかどうか? そんなもん文脈で分かるやろ」
という感じです。
「今日という日の、この日」にはこだわるのに
こうして見ると、言語というのは面白いものです。
ある部分では非常に細かく区別するのに、別の部分では、
「そんなもん、分かるやろ」
で済ませてしまう。
英語を習った私たちは、
I eat.
I am eating.
を区別するのが当たり前だと思っています。
でも、それは英語のルールに慣れているだけ。
フランス語から見れば、
「なんで『今』って分かってるのに、わざわざ動詞の形まで変えるの?」
となるのかもしれません。
一方こちらから見れば、
aujourd’hui
を見るたびに思うわけです。
「今日という日の、この日……」
……。
だから、いったいどの日やねん!
外国語を勉強すると、単語や文法だけでなく、
「自分が当たり前だと思っていた言葉の仕組みは、実は全然当たり前ではない」
ということに気づきます。
これが外国語学習の面白いところなのかもしれません。
そして今日も私はDuolingoを開きます。
もちろん、
「今日という日の、この日」に。
