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なぜキーエンスは「マネされても強い」のか?――高校生にもわかるビジネスモデルの話

「キーエンス」という会社を知っていますか?

高校生にはあまりなじみのない名前かもしれません。テレビCMで頻繁に見る会社でもありませんし、コンビニや家電量販店に行っても「KEYENCE」と書かれた商品が並んでいるわけではありません。

ところが、ビジネスの世界では超有名企業です。

特に有名なのが、ものすごく利益率が高いことと、社員の給料が非常に高いこと

では、いったい何をしている会社なのでしょうか。

工場の「目」や「ものさし」を作っている

キーエンスが主に販売しているのは、工場で使われるセンサーや測定器、画像処理装置などです。

たとえば工場では、

「この部品、ちゃんと付いてる?」

「この製品、規定の大きさになってる?」

「傷が入ってない?」

といったことを、ものすごいスピードで確認する必要があります。

そこで活躍するのがキーエンスの商品です。

人間が一つ一つチェックする代わりに、センサーやカメラなどを使って自動的に検査するわけですね。

これだけ聞くと、

「なるほど。ものすごく性能のいい機械を作っている会社なんやな」

と思います。

もちろん、それも間違いではありません。

でも、キーエンスの本当の面白さはそこではありません。

そんなに儲かるなら、マネしたらええやん

ここで一つ疑問が出てきます。

キーエンスの商品がそんなに高く売れて、そんなに儲かるのなら、

「同じようなものを安く作って売ればええやん」

と思いませんか?

これは経済を考えるうえで、とても重要な疑問です。

たとえば、ある店のタピオカが大ヒットしたとします。

すると、

「うちもタピオカ売ろう!」

という店が次々と現れます。

売れている商品があれば競争相手が参入する。すると価格競争が起きて、最初の店だけが大儲けし続けることは難しくなります。

ところがキーエンスは、長年にわたって非常に高い利益率を維持しています。

なぜなのでしょう。

実は「商品」だけを売っているわけではない

もちろん、キーエンスにも競合製品や似た商品はあります。

しかし、ここで大切なのは、

商品をマネすることと、キーエンスをマネすることは全然違う

ということです。

たとえば、ある工場でこんな問題があったとしましょう。

「完成した部品を社員が一個ずつ目で見て検査している。時間もかかるし、ときどき見落としもある」

そこへキーエンスの営業担当者がやってきます。

「ここにカメラを付ければ、自動で検査できますよ」

と提案する。

仮にその装置が100万円だったとしましょう。

高校生からすると、

「たかっ!」

と思いますよね。

でも、その装置を入れることで毎年500万円の人件費や不良品による損失を減らせるとしたらどうでしょう。

100万円払って500万円得するなら、

「それ、買います!」

となる可能性が高い。

つまりキーエンスは、

「この機械は100万円です」

と売っているのではなく、

「100万円払えば、あなたの会社のこの問題を解決できます」

と売っているわけです。

ここが非常に重要です。

営業マンが「困りごと探偵」になっている

さらにキーエンスは、代理店任せにせず、顧客に直接販売する「直販」を重視しています。

営業担当者が工場へ行くので、

「これ、面倒なんですよ」

「ここがうまく測れないんですよ」

「こんな機械があったら助かるんですけどねえ」

という現場の声が入ってきます。

つまり営業マンは、商品を売るだけではありません。

「世の中の工場が何に困っているのか」を集める情報収集部隊

でもあるのです。

ここで、キーエンスの強さが見えてきます。

たとえばA工場で、

「この作業、自動化できないかな」

という話を聞く。

別のB工場でも同じ話を聞く。

さらにC工場でも同じ。

すると、

「これ、A社だけの問題とちゃうな」

となります。

そこで、

多くの工場が困っている問題を解決する商品

を開発するわけです。

キーエンスによれば、新商品の約7割が発売時に「世界初」「業界初」となる商品です。

単に研究室の中で、

「すごい技術ができたから売ってみよう」

と考えるのではなく、

「お客さんが困っていること」から商品を考える。

これが強いのです。

コピーする会社は「過去」を見ている

ここで最初の疑問に戻ります。

「だったら、その商品をコピーすればええやん」

もちろん、それはできます。

競合会社がキーエンスの商品を見て、

「おっ、これ売れてるぞ」

と気づく。

商品を調べる。

似たものを設計する。

試作品を作る。

工場で量産する。

そして販売する。

……結構時間がかかります。

その間、キーエンスは何をしているでしょう。

また営業担当者が工場を回っています。

そして、

「次はこんなことで困ってますねん」

という情報を集めています。

つまり、

コピーする会社は「キーエンスが今何を売っているか」を見ている。

一方、キーエンスは、

「お客さんが次に何を欲しがるか」を見ている。

この差は大きい。

競合が追いついたころには、キーエンスは次の商品へ進んでいる可能性があるわけです。

しかも、同じ機械を作るだけでは足りない

さらに問題があります。

仮にキーエンスとほぼ同じ性能の商品を半額で作れたとしましょう。

それだけで勝てるでしょうか。

工場では、

「この機械、どこに付ければいいの?」

「設定はどうするの?」

「うちの製造ラインでも使える?」

という問題が出てきます。

キーエンスには、それを提案できる営業担当者がいます。

さらにキーエンスは「全商品当日出荷」を掲げています。

工場では機械が止まると大変です。

「センサーが壊れました」

「新しいのは3週間後に届きます」

では、その間ずっと工場を止めるわけにはいきません。

30万円の商品が3週間後に届く会社と、50万円だけどすぐ届く会社。

工場が止まることで毎日何百万円もの損失が出るなら、高くても後者を選ぶでしょう。

すると競合会社がキーエンスを本気でマネするためには、

商品だけではなく、営業担当者、顧客情報、在庫、物流、サポートまでマネしなければならない。

そこまでやったら、もう「コピー商品を作る」という話ではありません。

キーエンスという会社そのものをコピーする

ことになってしまいます。

「技術力が高い会社」だけでは説明できない

ここがキーエンスを考えるうえで面白いところです。

キーエンスが強い理由を、

「すごい技術を持っているから」

だけで説明すると、本質を見落としてしまいます。

もちろん技術力は重要です。

しかし、

営業 → 顧客の困りごとを発見 → 商品開発 → 販売 → また新しい困りごとを発見

という仕組みそのものが強いのです。

言い換えれば、

「何を作るか」だけでなく、「どうやって売るか」「どうやって次の商品を見つけるか」まで含めてビジネスモデル

なのです。

政治経済で習う「企業」の見方がちょっと変わる

高校の政治経済では、企業について、

「企業は生産活動を行い、利潤を追求する」

などと習います。

正しいのですが、これだけ読むと、どうも眠くなります。

でも実際の企業を見てみると、かなり面白い。

「なぜ、この会社だけこんなに儲かるんやろ?」

「儲かるなら、なんでライバルがマネせえへんの?」

「同じような商品なのに、なぜ高い方を買う人がいるんやろ?」

こういう疑問を考えていくと、

競争、価格、付加価値、企業戦略、技術革新

といった政治経済の言葉が、急に現実のものとして見えてきます。

キーエンスはその格好の教材です。

「儲かる商品を作れば勝ち」ではありません。

儲かり続ける「仕組み」を作った会社が強い。

キーエンスを見ると、企業というものの面白さがちょっと分かってくるのではないでしょうか。