最近、ガソリンスタンドの価格表示を見ていて、ふと疑問に思いました。
30年ほど前と比べると、ガソリンももちろん高くなっています。
でも、それ以上に値上がりしているのが灯油です。
1996年度の全国平均価格を見ると、
- レギュラーガソリン:約106円/L
- 軽油:約82円/L
- 灯油:約881円/18L
でした。
灯油を1Lあたりに直すと、約49円です。
一方、2026年8月末では、
- レギュラーガソリン:約170円/L
- 軽油:約159円/L
- 灯油:約2,534円/18L
となっています。
灯油は1Lあたり約141円です。
つまり30年間で、
ガソリンは約1.6倍
軽油は約1.9倍
灯油は約2.9倍
になっています。
「えっ、灯油だけほぼ3倍?」
と思いませんか。
しかも、ガソリンも軽油も灯油も、もとは同じ原油から作られています。
原油から取れる割合が大きく変わったわけでもないのに、なぜこれほど値上がり率に差が出るのでしょうか。
調べてみると、その最大のカギは意外にも、
「30年前の価格に、税金がどれだけ含まれていたか」
にありました。
まず30年前と現在を比べてみよう
分かりやすく1L単位で比べてみます。
| 燃料 | 1996年度 | 2026年8月末 | 約30年間の変化 |
|---|---|---|---|
| レギュラーガソリン | 106円 | 170円 | 約1.6倍 |
| 軽油 | 82円 | 159円 | 約1.9倍 |
| 灯油 | 49円 | 141円 | 約2.9倍 |
こうして並べると、かなり違います。
1996年当時、灯油はガソリンの半額以下でした。
106円に対して49円ですから、
灯油はガソリン価格の約46%
しかありませんでした。
ところが現在は、
170円に対して141円。
灯油はガソリン価格の8割以上まで接近しています。
昔の感覚からすると、
「灯油、高くなったなあ」
と感じるのは当然です。
同じ原油から作るのに、なぜ価格差が変わる?
原油を製油所で精製すると、沸点の違いによってさまざまな石油製品に分かれます。
おおまかには、
LPG
↓
ガソリン
↓
ナフサ
↓
灯油
↓
軽油
↓
重油
といった具合です。
ですから、
「今日は灯油だけ作ります」
というわけにはいきません。
もちろん現代の製油所では、分解や改質などによって生産量をある程度調整できます。
それでも、ガソリン、灯油、軽油は同じ原油から同時に生まれる、いわば兄弟のような商品です。
ここだけ見ると、
「原油価格が3倍なら、全部だいたい3倍になるんちゃうの?」
と思いたくなります。
ところが、小売価格には原油以外のものが入っています。
その代表が税金です。
ガソリンには昔から大きな税金が含まれていた
ここが今回の話の核心です。
ガソリン価格には、昔から揮発油税などの大きな固定額の税金が含まれていました。
一方、灯油にはガソリン税のような大きな燃料課税がありません。
この違いが、30年間の「値上がり倍率」を大きく変えて見せます。
ものすごく単純化した例を考えてみましょう。
30年前、
ガソリンが
原料50円+税金50円=100円
だったとします。
灯油は大きな燃料税がないので、
原料50円=50円
だったとします。
その後、原油高や円安などで原料部分が50円から100円になったとします。
すると、
ガソリンは
原料100円+税金50円=150円
です。
100円から150円なので、1.5倍です。
一方、灯油は、
50円→100円
なので、2倍です。
原料部分はまったく同じように値上がりしているのに、
小売価格を見ると、
ガソリン1.5倍
灯油2倍
と見えるわけです。
つまり、
固定額の税金が大きい商品ほど、原油高による値上がり率が小さく見える
のです。
30年前のガソリンは「燃料そのもの」が高かったわけではない
1996年の価格を見ると、
ガソリン106円
灯油49円
です。
価格差は57円もあります。
つい、
「当時はガソリンそのものが灯油の2倍以上の価値があった」
と思ってしまいます。
でも、そうではありません。
この価格差にはガソリン税などが大きく影響しています。
つまり30年前のガソリン価格は、
燃料そのものの価格+かなり大きな税金
でした。
一方、灯油は、
燃料そのものの価格+流通・販売コスト
に近い構造でした。
ですから灯油の49円という価格は、当時の原油価格の安さをかなり直接反映していたのです。
30年前は、とにかく原油が安かった
そしてもう一つ非常に大きいのが、1990年代半ばの原油価格です。
1995年ごろ、日本が輸入していた原油は1バレル20ドルにも満たない水準でした。
しかも当時は今より円高で、1ドル100円前後の時期もありました。
単純化すると、
原油そのものが安い
+ 円も強い
という、日本の消費者にとって非常に有利な状況だったわけです。
一方、現在は原油価格そのものが30年前よりはるかに高いうえ、円相場も当時よりかなり円安です。
日本は原油のほとんどを輸入しています。
ですから、
原油高 × 円安
のダブルパンチになります。
例えば、
1バレル20ドル × 1ドル100円
なら2,000円です。
ところが、
1バレル70ドル × 1ドル150円
なら10,500円。
もちろん実際の輸入価格はもっと複雑ですが、感覚としては、
円換算した原油価格が数倍になっている
ことが分かります。
灯油はその影響をストレートに受ける
これが灯油の値上がり率が大きくなった理由です。
ガソリン価格には大きな固定税が含まれていたため、もともとの価格が高く見えていました。
対して灯油は税負担が小さいため、昔は原油の安さがそのまま価格に現れていました。
そして原油価格が上がると、今度はその値上がりも比較的ストレートに反映されます。
つまり灯油は、
昔は「原油が安い恩恵」を強く受け、
現在は「原油高と円安の影響」を強く受けている
ということです。
だから30年間の倍率で見ると、約3倍という大きな数字になります。
軽油が約2倍なのはなぜ?
では軽油はどうでしょう。
1996年度は82円/L。
2026年8月末は約159円/L。
約1.9倍です。
ガソリンと灯油の中間くらいになっています。
これも税制が関係します。
軽油には軽油引取税があります。
つまり、
ガソリンほどではないものの、灯油よりは固定的な税負担があります。
そのため値上がり倍率も、
ガソリン:約1.6倍
軽油:約1.9倍
灯油:約2.9倍
という順番になります。
これは偶然ではありません。
「価格に占める固定税の割合」が、この違いのかなりの部分を説明しています。
では、灯油だけが特別に不足しているのか?
ここまで見ると、
「灯油の需要が増えて不足したから3倍になったのでは?」
と思うかもしれません。
もちろん石油製品ごとの需給も価格には影響します。
ガソリン、灯油、軽油はそれぞれ世界市場で別の商品として取引されています。
冬場に灯油需要が増えたり、航空燃料需要が強くなったりすれば、灯油と近い成分の価格が上昇することもあります。
ただ、30年間という長い期間で、
ガソリン1.6倍、灯油2.9倍
という違いを見る場合、まず理解しておきたいのは需給以上に、
「そもそもの小売価格に占める税金の構造が違った」
という点です。
「灯油が3倍」というより「昔の灯油がものすごく安かった」
ここまで調べてみると、見方が少し変わってきます。
「なぜ今の灯油はこんなに高いのか?」
という疑問も正しいのですが、
むしろ、
「なぜ30年前の灯油は1L約50円という安さだったのか?」
と考えた方が本質に近いかもしれません。
当時は、
原油価格が非常に安い
+ 円高
+ 灯油には大きな燃料税がない
という条件が重なっていました。
その結果、灯油の価格は原油の安さをかなり素直に反映していました。
逆にガソリンは大きな税金が上乗せされていたので、灯油ほど安くはならなかったのです。
同じ原油からできても、値段は同じようには動かない
今回の疑問で面白いのは、
「同じ原油からできるのだから、価格も同じ割合で変化するはず」
という直感が、必ずしも成り立たないことです。
商品価格は、
原油価格だけでは決まりません。
そこには、
為替
税金
精製コスト
輸送コスト
販売コスト
国内外の需給
などが加わります。
同じ原油からできた兄弟でも、小売価格になるまでの道筋が違うのです。
まとめ
約30年前と現在を比べると、
ガソリン:約1.6倍
軽油:約1.9倍
灯油:約2.9倍
になっています。
灯油だけが大きく値上がりしたように見える理由を整理すると、
① 30年前は原油そのものが非常に安かった
② 当時は現在より円高で、輸入原油がさらに安かった
③ 灯油にはガソリンのような大きな固定税がない
④ そのため原油価格と為替の変動が、灯油価格に比較的そのまま表れる
ということになります。
逆にガソリンは、昔から大きな税金が含まれていたため、原油価格が上がっても価格全体の「倍率」は小さく見えます。
つまり、
「灯油だけが異常に高くなった」というより、「30年前の灯油が原油安・円高・低税負担によって、とてつもなく安かった」
と考えると分かりやすいのです。
30年前は1L約50円だった灯油が、今では約140円。
ガソリンスタンドに並ぶ数字を見ているだけでは分かりませんが、その裏には原油価格、為替、税制という30年間の大きな経済変化が隠れています。
何気ない灯油の値札も、こうして見るとちょっとした「経済史」ですね。
