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思考力を鍛える小論文術:看護学科志望者のための実践ガイド:第13回 「自己の経験を看護に結びつける」

こんにちは。あんちもです。

前回は「看護の専門性と社会貢献」について解説しました。今回は「自己の経験を看護に結びつける」をテーマに、皆さん自身の体験や経験をどのように看護と関連づけて表現するかについて解説します。

看護学科の小論文や面接では、「あなたが看護師を目指すきっかけとなった経験は何ですか」「あなたの経験は看護にどのように活かせますか」といった問いがよく出題されます。こうした問いに対して、単なるエピソードの羅列や表面的な感想だけでは説得力に欠けてしまいます。自分の経験を深く掘り下げ、看護の本質と結びつけて表現することが重要です。

今回は、自己の経験を看護に結びつけるための思考法や表現法を学び、説得力のある小論文を書くためのコツを身につけていきましょう。

経験を看護に結びつける意義

まず、なぜ「自己の経験を看護に結びつける」ことが重要なのかを考えてみましょう。

1. 志望動機の真実性を示せる

自分の実際の経験に基づいた志望動機は、説得力と真実性があります。「なぜ看護師になりたいのか」という問いに対して、自分自身の具体的な体験から導き出された答えは、面接官や小論文の読み手に強い印象を与えます。

2. 看護観の土台を形成できる

自分の経験を通して学んだことや感じたことは、その人の看護観(看護に対する考え方や価値観)の土台となります。自己の経験と看護理論や看護の本質を結びつけることで、より深い看護観を形成することができます。

3. 看護実践の原動力になる

自分が実際に体験したことから生まれた思いや考えは、将来の看護実践における強い原動力になります。困難な状況でも踏ん張れる力、看護師として成長し続ける意欲の源泉となるでしょう。

4. 自分の強みや個性を示せる

誰にでもある一般的な理由ではなく、自分だけの経験に基づく理由を述べることで、自分の強みや個性をアピールすることができます。「この人だからこそできる看護」を示すことができるのです。

経験を効果的に振り返るための4つのステップ

自己の経験を看護に結びつけるためには、まず自分の経験を深く振り返り、そこから得た学びや気づきを明確にすることが大切です。以下の4つのステップで、経験を効果的に振り返ってみましょう。

ステップ1: 具体的な体験を思い出す

まず、自分の過去の経験の中から、看護に関連すると思われる具体的な体験を思い出します。以下のような経験が考えられるでしょう。

  • 家族や身近な人の入院・療養を見守った経験
  • ボランティア活動で患者さんや高齢者と関わった経験
  • 自分自身が病気や怪我で医療を受けた経験
  • 学校の看護体験や職場体験で医療現場を見学した経験
  • 部活動やクラブ活動でチームワークや責任感を学んだ経験
  • 困難を乗り越えた経験や人の役に立てた経験

: 「祖母が脳梗塞で入院した際、3ヶ月間ほぼ毎日病院に通い、リハビリの様子を見守った」

ステップ2: その時の状況と自分の感情を詳細に思い出す

次に、その体験の状況や背景、自分がその時に感じた感情や考えを詳細に思い出します。5W1H(いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように)を意識すると、より具体的に思い出すことができます。

: 「高校1年生の夏休み、突然倒れた祖母が地域の総合病院に救急搬送された。最初は言葉も出ず右半身が動かない状態で、家族全員が不安と焦りでいっぱいだった。しかし、看護師さんが毎日笑顔で接し、少しの変化も見逃さず声をかけてくれたおかげで、家族も前向きな気持ちになれた。特に印象的だったのは、祖母が『もう歩けないかもしれない』と泣いた時、看護師さんが『一緒に頑張りましょう』と手を握りながら言ってくれたこと。その言葉が祖母の励みになったようだった。」

ステップ3: その経験から学んだことや気づきを整理する

その体験から自分が何を学んだのか、どのような気づきを得たのかを整理します。単なる感想ではなく、その経験を通して自分の中で何が変わったのか、どのような価値観や考え方が形成されたのかを考えてみましょう。

: 「この経験から、私は三つのことを学んだ。一つ目は、病気や障害は身体だけでなく心にも大きな影響を与えるということ。祖母の『もう歩けない』という言葉には、将来への不安や自己価値の低下が表れていた。二つ目は、専門的な医療知識・技術と同時に、患者の気持ちに寄り添う姿勢が回復に大きく影響するということ。看護師さんの励ましの言葉が、祖母のリハビリへの意欲を高めていた。三つ目は、患者だけでなく家族も支援の対象だということ。看護師さんは私たち家族にも丁寧に説明し、時には励まし、不安を和らげてくれた。」

ステップ4: 看護の本質や価値と結びつける

最後に、その学びや気づきが看護の本質や価値とどのように結びつくのかを考えます。看護の基本概念(人間、健康、環境、看護)や看護の専門性(全人的ケア、予防的視点、生活支援など)と関連づけて考えてみましょう。

: 「この経験を通して、看護とは単に身体的なケアを提供するだけでなく、患者の心理的・社会的側面も含めた全人的ケアであると理解した。看護師は専門的知識と技術を持ちながらも、患者一人ひとりの個別性を尊重し、その人らしさを大切にする姿勢が重要である。また、患者を取り巻く家族などの環境も含めて支援することで、患者のQOL(生活の質)向上や回復を促進する役割を担っている。私はこの看護の本質に深く共感し、将来は患者さんの『生きる』を多角的に支える看護師になりたいと考えるようになった。」

看護に結びつく経験の例と掘り下げ方

次に、どのような経験が看護に結びつくのか、そしてそれをどのように掘り下げればよいのかについて、いくつかの例を見ていきましょう。

1. 病気や入院の経験

自分自身や家族の病気・入院の経験は、看護に直接関連する重要な体験です。

掘り下げるポイント:

  • その時の不安や恐怖、痛みなどの感情をどう乗り越えたか
  • 医療者のどのような言葉や行動に救われたか、または不足を感じたか
  • その経験が自分の「患者の気持ちを理解する力」にどうつながるか
  • 「もし自分が看護師だったら」どのようなケアをしたいと思ったか

例文: 「私が12歳の時、急性虫垂炎で緊急手術を受けた。初めての手術と入院で強い不安を感じていた私に、術前に担当看護師は『どんなことが心配?』と優しく尋ねてくれた。痛みや麻酔への恐怖を正直に話すと、看護師は私の目線に合わせてしゃがみ、『その気持ち、わかるよ。でもきっと大丈夫。私がそばにいるからね』と言ってくれた。この体験から、患者の不安に寄り添い、安心感を与えることの重要性を学んだ。将来看護師として、特に子どもの患者には、目線を合わせて丁寧に説明し、患者の声に耳を傾ける姿勢を大切にしたい。」

2. 介護や看病の経験

家族の介護や看病の経験も、看護に結びつく貴重な体験です。

掘り下げるポイント:

  • どのようなケアを行い、何に難しさを感じたか
  • その人の尊厳をどのように守ろうとしたか
  • その経験が「生活を支援する」という看護の視点とどうつながるか
  • 医療者との関わりの中で気づいたこと

例文: 「高校2年生の時、骨折した祖父の在宅介護を家族と共に3か月間経験した。食事介助やトイレの付き添い、服薬管理など、日常生活の援助を通して、人の暮らしを支えることの大変さと尊さを実感した。特に印象的だったのは、『自分のことは自分でしたい』という祖父の強い思いと、安全を確保する必要性のバランスを取ることの難しさだった。この経験から、看護とは単に身体的な世話をすることではなく、その人の自立心や尊厳を守りながら必要な支援を行うことだと理解した。訪問看護師さんが祖父の意思を尊重しながらも、転倒リスクを減らすための環境調整や工夫を提案してくれたことに深く感銘を受け、私も将来このような看護師になりたいと思った。」

3. ボランティアや職場体験の経験

福祉施設でのボランティアや病院での職場体験も、看護に結びつく重要な経験です。

掘り下げるポイント:

  • どのような活動を行い、どのような対象者と関わったか
  • その活動で嬉しかったこと、難しかったこと
  • 医療・福祉の専門職の姿から学んだこと
  • その経験が自分の看護観形成にどう影響したか

例文: 「高校1年生から2年間、地域の特別養護老人ホームでボランティア活動を続けてきた。レクリエーションのお手伝いや傾聴ボランティアとして多くの高齢者と関わる中で、同じ認知症の症状があっても、一人ひとり全く異なる個性や生活史を持っていることを学んだ。最初は『お年寄りを元気づけたい』という単純な思いで始めた活動だったが、実際には私の方が多くのことを学び、人生の知恵をいただいていると感じるようになった。特に印象的だったのは、施設の看護師が利用者一人ひとりの小さな変化に気づき、その人の生活史や好みを踏まえたケアを提供している姿だった。この経験から、看護とは対象者を一方的に援助するのではなく、その人の人生や価値観を尊重し、双方向の関係性の中で行われるものだと理解するようになった。」

4. 部活動やクラブ活動の経験

一見、医療とは関係なさそうな部活動やクラブ活動の経験も、看護に結びつけることができます。

掘り下げるポイント:

  • チームワークや協調性、リーダーシップについて学んだこと
  • 困難を乗り越えた経験や粘り強く取り組んだ経験
  • 相手の立場に立って考えることの大切さを学んだ場面
  • その経験で培った能力が看護にどう活かせるか

例文: 「私は3年間、バスケットボール部に所属し、最終的にはキャプテンを務めた。試合に勝つためには、一人ひとりが自分の役割を理解し、チーム全体として連携することが不可欠だった。特に印象的だったのは、チームメイトの調子が悪い時に、どう声をかけるかを常に考えていたことだ。同じ言葉でも、人によって受け取り方が全く異なることを実感した。この経験は、看護におけるチーム医療の重要性や、患者一人ひとりの個別性に合わせたコミュニケーションの必要性につながると考えている。また、厳しい練習に耐え、何度も失敗を乗り越えてきた経験は、専門的知識と技術の習得が求められる看護師への道において、困難に立ち向かう精神力の基盤になると確信している。」

5. 人間関係や挫折の経験

人間関係の難しさや挫折の経験も、看護に結びつく重要な糧となります。

掘り下げるポイント:

  • その経験をどのように乗り越えたか、または受け入れたか
  • 人間の複雑さや多様性についてどのような気づきを得たか
  • その経験によって自分自身がどう成長したか
  • その経験が「人を理解する」という看護の基本姿勢にどうつながるか

例文: 「高校2年生の時、クラスメイトとの人間関係で深く悩んだ経験がある。価値観の違いから相手を理解できず、互いに傷つけ合ってしまった。しかし、担任の先生のアドバイスもあり、『相手の立場になって考える』ことを意識的に実践するようになると、少しずつ関係が改善していった。この経験から、人間理解の難しさと重要性を学んだ。看護においても、患者さんの言動の背景には必ず理由があり、表面的な言動だけで判断するのではなく、その人の価値観や生活背景、心理状態を理解しようとする姿勢が大切だと考えるようになった。また、自分自身の感情や価値観を自覚し、コントロールすることの重要性も学んだ。この『自己理解』と『他者理解』の経験は、患者さんと信頼関係を築く看護師になるための貴重な糧になると確信している。」

小論文での表現のポイント

自己の経験を看護に結びつけた小論文を書く際の具体的なポイントを紹介します。

1. 具体的なエピソードを挙げる

抽象的な記述ではなく、具体的なエピソードや場面を描写することで、説得力が増します。

抽象的: 「祖母の入院をきっかけに看護師に興味を持った」 具体的: 「祖母が肺炎で入院した際、夜間の高熱と呼吸困難で不安になる祖母に、看護師さんが優しく声をかけながら体位を調整し、痰の吸引を行う姿に感銘を受けた」

2. 経験からの学びを深く掘り下げる

単なる感想や表面的な学びにとどまらず、その経験から何を考え、どう変化したのかを深く掘り下げて表現しましょう。

表面的: 「ボランティア活動で高齢者と関わり、人の役に立つ喜びを知った」 掘り下げた: 「特別養護老人ホームでのボランティア活動では、初めは『お年寄りを元気づける』という一方的な気持ちで参加したが、実際には利用者の方々の人生経験から学ぶことが多く、支援する側・される側という単純な関係ではなく、互いに影響し合う関係性の中にケアの本質があると気づいた」

3. 看護の概念や価値と結びつける

個人的な経験を、看護の基本概念や価値と結びつけることで、看護への理解の深さを示すことができます。

単なる経験の記述: 「妹の入院中、看護師さんが親切で感謝した」 看護と結びつけた記述: 「妹の入院中、看護師さんが医学的ケアを提供するだけでなく、不安を抱える妹の気持ちに寄り添い、また親である母の疲労にも気づいて声をかけてくれる姿から、看護とは患者だけでなく家族も含めた全体を対象とし、身体的・精神的・社会的側面から包括的に支援するものだと理解した」

4. 将来の看護師像と結びつける

経験から学んだことを、将来どのような看護師になりたいかという展望と結びつけることで、志望動機の一貫性と強さを示せます。

単なる抱負: 「優しい看護師になりたい」 経験と結びつけた展望: 「祖父の入院中、夜間せん妄で混乱する祖父に、根気強く同じ説明を繰り返し、時には手を握って安心感を与えてくれた看護師の姿に深く感銘を受けた。この経験から、私も将来、認知機能の低下や混乱状態にある患者さんの心理を理解し、その人の尊厳を守りながら安心感を提供できる看護師になりたいと考えている」

5. 自分の強みや個性を示す

経験を通して培った自分の強みや個性を示すことで、「あなただからこそできる看護」をアピールしましょう。

一般的な記述: 「コミュニケーション能力を活かして看護師になりたい」 個性を示した記述: 「部活動のマネージャーとして様々な性格の部員と関わる中で、相手の表情や態度から心情を読み取り、一人ひとりに合わせたコミュニケーションを取ることを学んだ。この『観察力』と『適応力』は、患者さん一人ひとりの個別性に合わせたケアを提供する看護において重要な強みになると考えている」

実践演習:自己の経験を看護に結びつける小論文を書いてみよう

以下のテーマで小論文を書く練習をしてみましょう。

テーマ:「あなたが看護師を目指すきっかけとなった経験は何ですか。その経験からどのようなことを学び、将来どのような看護師になりたいと考えていますか。600字程度で述べなさい。」

解答例

私が看護師を目指すきっかけとなったのは、高校1年生の夏、祖母が脳梗塞で倒れ、3ヶ月間入院した経験である。突然の出来事に家族全員が動揺する中、看護師の方々の存在が私たちを支えた。 特に印象的だったのは、右半身麻痺で自力での日常生活が困難になった祖母が、「もう何もできない」と涙する場面だった。その時、担当看護師は祖母の手をそっと握り、「できることから少しずつ一緒に頑張りましょう」と穏やかに語りかけた。そして翌日からは、祖母ができることを見つけ出し、小さな成功体験を積み重ねていくよう援助していた。この関わりにより、祖母は少しずつ自信を取り戻し、リハビリにも前向きに取り組むようになった。 この経験から、私は三つのことを学んだ。一つ目は、病気や障害によって心理的にも大きな影響を受ける患者の気持ちに寄り添うことの重要性。二つ目は、その人の残された機能や強みに着目し、「できること」を支援することの大切さ。三つ目は、希望を持ち続けられるような関わりが回復への意欲を高めるということだ。 また、看護師は患者の身体的ケアだけでなく、精神的支援や生活再建までを視野に入れた包括的な支援を行う専門職だと実感した。私自身が途方に暮れていた時、「焦らなくても大丈夫。一歩ずつですよ」と声をかけてくれた看護師の言葉に救われた経験から、患者だけでなく家族も含めたケアの重要性も理解した。 将来は、この経験から学んだ「患者の気持ちに寄り添う力」「その人の強みを見出す視点」「希望を支える姿勢」を大切にし、特にリハビリテーション看護の分野で、患者さんが自分らしく生きる道を一緒に見つけられる看護師になりたい。

ポイント解説

  • 具体的なエピソード(祖母の入院、看護師の言葉かけの場面)を挙げています
  • この経験から学んだことを3つに整理し、看護の本質と結びつけて考察しています
  • 患者だけでなく家族へのケアについても触れ、看護の包括的な視点を示しています
  • 将来の看護師像が、経験から学んだことと直接結びついています
  • 最後に具体的な希望分野(リハビリテーション看護)にも触れています

まとめと次回予告

今回は「自己の経験を看護に結びつける」について解説しました。自己の経験を看護に結びつけるためには、具体的な体験を詳細に思い出し、そこから学んだことや気づきを整理し、看護の本質や価値と結びつけて考えることが大切です。また、小論文では具体的なエピソードを挙げ、経験からの学びを深く掘り下げ、将来の看護師像と結びつけて表現することがポイントです。

皆さんも、自分の経験を振り返り、それがどのように看護への道につながっているのかを考えてみてください。単なる「きっかけ」にとどまらず、その経験から何を学び、どのような看護観を形成したのかを深く掘り下げることで、より説得力のある志望動機や小論文を書くことができるでしょう。

次回は「模擬問題演習①」です。これまで学んできた小論文の書き方のポイントを活かして、実際の入試で出題されるような問題に取り組んでみましょう。課題文の読み解き方から論理的な文章の組み立て方まで、総合的な演習を行います。

皆さんの小論文学習が実り多きものになることを願っています!