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思考力を鍛える小論文術:看護学科志望者のための実践ガイド:第15回 「模擬問題演習②とシリーズのまとめ」

こんにちは。あんちもです。

前回は「模擬問題演習①」として、「医療と人間関係」と「看護と倫理」という2つのテーマで模擬問題に取り組みました。今回は「模擬問題演習②」として、「医療と技術」と「共生社会と看護」という2つのテーマの模擬問題に挑戦します。そして最後に、全15回のシリーズを振り返り、小論文対策のポイントをまとめます。

これまで学んできた小論文の書き方を活かして、より実践的な力を身につけていきましょう。

模擬問題3:医療と技術

問題

以下の課題文を読み、問いに答えなさい。

近年、人工知能(AI)やロボット技術、遠隔医療システムなど、医療分野においても様々な技術革新が進んでいます。AI診断支援システムは膨大な医療データを分析し、医師の診断をサポートするようになり、手術支援ロボットの導入により、より精密な手術が可能になりました。また、遠隔医療システムの発展は、地理的な制約を超えた医療サービスの提供を可能にしています。

こうした技術の発展は、医療の質の向上や医療アクセスの改善に貢献する一方で、様々な課題も指摘されています。例えば、AIやロボットによる判断の責任の所在、患者データのプライバシー保護、対面診療と比較した際の医療の質の担保、さらには医療従事者の業務内容の変化などです。

これからの医療では、技術の利点を最大限に活かしながらも、「人にしかできないケア」の価値を再認識し、技術と人間の関わりのバランスを取っていくことが求められています。特に看護においては、患者に直接触れ、言葉にならないニーズを察知する「人間ならではの感性」が重要であり、技術の進歩の中でもその本質は変わらないとも言われています。

問い:医療における技術の活用と「人にしかできないケア」のバランスについて、あなたの考えを600字程度で述べなさい。

課題文の読み解き方

この課題文では、医療技術の進歩と「人にしかできないケア」のバランスがテーマとなっています。

テーマ:医療における技術の活用と「人にしかできないケア」のバランス

課題文のポイント

  1. 医療分野でもAI、ロボット技術、遠隔医療など様々な技術革新が進んでいる
  2. これらの技術は医療の質の向上や医療アクセスの改善に貢献している
  3. 一方で責任の所在やプライバシー保護、医療の質の担保などの課題もある
  4. これからは技術の利点を活かしながら「人にしかできないケア」の価値を再認識することが重要
  5. 看護では「人間ならではの感性」が重要であり、技術進歩の中でもその本質は変わらない

論点の整理

この問題に対して、以下のような論点が考えられます。

  1. 医療技術の進歩がもたらすメリット
    • 診断・治療の精度向上
    • 医療アクセスの改善
    • 医療者の負担軽減
  2. 技術活用に伴う課題
    • 人間関係の希薄化
    • 責任の所在の不明確さ
    • プライバシーやセキュリティの問題
  3. 「人にしかできないケア」の本質
    • 共感や情緒的サポート
    • 非言語的コミュニケーション
    • 個別性に応じた柔軟な対応
  4. 技術と人間のバランスの取り方
    • 技術を補完的に活用する視点
    • 技術によって生まれる時間を人間的ケアに充てる
    • 技術の限界を理解した上での活用

構成の立て方

600字という制限の中で、自分の考えを明確に伝えるためには、論点を絞り込む必要があります。例えば以下のような構成が考えられます。

序論(約100字):

  • 医療技術の進歩と「人にしかできないケア」のバランスについての問題提起
  • 自分の主張(例:技術は「人にしかできないケア」を充実させるために活用すべき)を簡潔に示す

本論(約400字):

  • 「人にしかできないケア」の本質について説明
  • 技術活用のメリットと課題
  • 両者のバランスをどう取るべきかについての自分の考え

結論(約100字):

  • 看護師として技術とどう向き合うかについてのまとめ
  • 将来展望や決意

解答例

医療分野における技術革新は、診断精度の向上や医療アクセスの改善など多くの恩恵をもたらしている。一方で、こうした技術の進歩により、ケアの本質である「人と人との関わり」が希薄化するのではないかという懸念も生じている。私は、医療技術は「人にしかできないケア」を充実させるための手段として活用すべきであり、両者は対立するものではなく、相互補完的な関係にあると考える。 「人にしかできないケア」の本質は、患者の言葉にならない思いや感情を察知し、共感的理解を示しながら寄り添うことにある。例えば、術後の痛みを訴える患者に対して、バイタルサインや表情から苦痛の程度を読み取り、手を握って声をかけながら不安を和らげる関わりは、現時点ではどんな高度な技術も代替できない。また、その人の価値観や生活背景を考慮した個別的なケア、患者の変化に応じた柔軟な対応なども、人間の感性と判断力があってこそ可能になる。 一方、技術の活用によって得られるメリットも大きい。例えば、バイタルサインの自動測定やAIによる異常検知システムにより、データ収集や記録にかかる時間が削減されれば、その分を患者との対話や精神的ケアに充てることができる。また、遠隔医療システムは地理的制約を超えた医療提供を可能にし、特に医療資源の乏しい地域の患者にとって大きな福音となる。 技術と人間のバランスを取るためには、「技術でできること」と「人にしかできないこと」を明確に区別し、それぞれの強みを活かす視点が重要だ。技術は定型的な業務や数値的評価に優れており、人間は共感性や創造性、個別的判断に優れている。看護師として、私は技術を「ケアの質を高めるための道具」として積極的に学び活用していく一方で、人間の温かみや共感的理解の重要性を常に意識し、テクノロジーに依存しすぎない姿勢を持ち続けたい。

解説

この解答例では、以下のポイントを押さえています。

  1. 序論では、医療技術と「人にしかできないケア」のバランスについての問題提起をし、「両者は対立するものではなく、相互補完的な関係にある」という自分の主張を明確に示しています。
  2. 本論では、まず「人にしかできないケア」の本質について具体例(術後患者への対応)を交えながら説明しています。
  3. 次に、技術活用のメリットとして「患者との対話や精神的ケアの時間確保」「医療アクセスの改善」を挙げています。
  4. そして、両者のバランスの取り方として「それぞれの強みを活かす視点」の重要性を論じています。
  5. 結論では、看護師として技術をどう捉えるかという自分の姿勢を示し、技術を「ケアの質を高めるための道具」として位置づけながらも「人間の温かみや共感的理解」も大切にするという展望を述べています。
  6. 全体を通して、対立図式ではなく、相互補完的な関係として技術と人間のケアを捉える視点が示されています。

模擬問題4:共生社会と看護

問題

以下の課題文を読み、問いに答えなさい。


日本社会は少子高齢化が進み、また価値観や生活様式の多様化が進んでいます。国籍や文化的背景、性的指向、能力の違いなど、様々な特性を持った人々が互いを尊重し、共に生きる「共生社会」の実現が求められています。

医療の現場においても、多様な背景を持つ患者に対応する機会が増えています。例えば、言語や文化の異なる外国人患者、認知症や知的障害を持つ患者、性的マイノリティの患者など、画一的なケアでは対応できないケースが増加しています。このような状況において、医療者には「多様性への理解」と「個別性に応じたケア」が一層求められるようになっています。

特に看護師は、患者に最も身近な医療者として、患者一人ひとりの背景や価値観を理解し、その人らしさを尊重したケアを提供する役割を担っています。また、患者と他の医療者をつなぐ架け橋としての役割も重要です。

共生社会における看護の役割は、単に医療的なケアを提供するだけでなく、患者の社会的背景も含めた全人的なケアを行い、すべての人が尊厳を持って生きられる社会づくりに貢献することにあると言えるでしょう。

問い:共生社会における看護の役割と課題について、あなたの考えを600字程度で述べなさい。

課題文の読み解き方

この課題文では、多様性が増す社会における看護の役割と課題がテーマとなっています。

テーマ:共生社会における看護の役割と課題

課題文のポイント

  1. 少子高齢化や価値観の多様化により「共生社会」の実現が求められている
  2. 医療現場でも多様な背景を持つ患者に対応する機会が増えている
  3. 医療者には「多様性への理解」と「個別性に応じたケア」が求められている
  4. 看護師は患者に最も身近な存在として「その人らしさを尊重したケア」を提供する役割がある
  5. 共生社会における看護の役割は「全人的なケア」と「社会づくりへの貢献」にある

論点の整理

この問題に対して、以下のような論点が考えられます。

  1. 共生社会における看護の役割
    • 多様性を尊重したケアの提供
    • 患者のアドボケート(代弁者)としての機能
    • 多職種・地域連携の促進
    • 健康格差の是正への貢献
  2. 多様性に対応するための課題とその解決策
    • 文化的感受性・多様性理解の向上
    • コミュニケーション方法の工夫
    • 偏見や先入観の払拭
    • 組織としての取り組み
  3. 具体的な対象者別の対応
    • 外国人患者への対応
    • 認知症や障害のある患者への対応
    • LGBTQなど性的マイノリティへの対応
    • 経済的困難を抱える患者への対応
  4. 看護師自身の成長と学びの必要性
    • 多様性に関する継続的学習
    • 自己の価値観や偏見の振り返り
    • 異文化対応能力の育成

構成の立て方

600字という制限の中で、共生社会における看護の役割と課題を論理的に述べるには、以下のような構成が考えられます。

序論(約100字):

  • 共生社会と看護の関係性について述べる
  • 自分の主張(例:多様性を尊重した個別的ケアの重要性)を簡潔に示す

本論(約400字):

  • 共生社会における看護の役割について2〜3点挙げて説明
  • それを実現するための課題と解決策
  • 具体的な事例を交えながら論じる

結論(約100字):

  • 共生社会における看護の意義を再確認する
  • 看護師としての自分の決意や展望を述べる

解答例

近年、多様性が尊重される共生社会の実現が求められるなか、医療現場においても様々な背景を持つ患者への対応が必要となっている。共生社会における看護の役割と課題について、私は「多様性を理解した個別的ケア」と「社会的包摂の促進」の二つの視点から考察したい。 第一に、看護師は多様な背景を持つ患者一人ひとりの個別性を理解し、尊重したケアを提供する役割がある。例えば、異なる文化的背景を持つ外国人患者に対しては、その文化における健康観や病気の捉え方、宗教的禁忌などを理解した上でケアを提供することが重要である。また、認知症の方には、その人の生活史や価値観を理解し、残存能力を活かした支援を行うことで、その人らしさを保つことができる。 しかし、この役割を果たす上での課題として、看護師自身の文化的感受性の向上や多様性に対する理解の深化が挙げられる。この課題に対しては、継続的な学習と自己の価値観の振り返りが必要である。私自身、高校時代の多文化交流活動を通じて、「当たり前」が人によって異なることを学んだ経験から、常に自分のバイアスを意識することの重要性を感じている。 第二に、看護師は患者の社会的包摂を促進する役割も担っている。例えば、障害を持つ患者が社会復帰する際には、単に医療的ケアを提供するだけでなく、地域の資源につなげたり、就労支援の情報提供を行ったりすることで、その人が社会の一員として尊厳を持って生活できるよう支援する。また、患者の代弁者として、医療チームや地域社会に患者のニーズを伝え、必要な支援体制の構築を促す役割も重要である。 この役割を果たすための課題として、多職種連携や地域連携の強化が挙げられる。看護師一人の力には限界があるため、様々な専門職や地域住民と協働し、包括的な支援体制を構築することが必要だ。 共生社会における看護とは、単なる医療行為を超え、多様性を尊重しながら一人ひとりの社会参加を支援することにある。私は将来、多様な背景を持つ人々に寄り添い、誰もが尊厳を持って生きられる社会づくりに貢献できる看護師になりたい。

解説

この解答例では、以下のポイントを押さえています。

  1. 序論では、共生社会における看護について「多様性を理解した個別的ケア」と「社会的包摂の促進」という二つの視点から考察するという主張を示しています。
  2. 本論では、まず「多様性を理解した個別的ケア」の役割について説明し、外国人患者や認知症の方への対応を具体例として挙げています。
  3. その役割を果たす上での課題と解決策として、看護師自身の文化的感受性の向上や自己の価値観の振り返りの必要性に言及しています。
  4. 次に「社会的包摂の促進」の役割について説明し、障害を持つ患者の社会復帰支援などを例に挙げています。
  5. その役割の課題として、多職種連携や地域連携の強化の必要性を指摘しています。
  6. 結論では、共生社会における看護の意義をまとめ、自分自身の将来の看護師像を示して締めくくっています。
  7. 全体を通して、抽象的な議論だけでなく、具体的な患者群(外国人、認知症の方、障害を持つ方)への対応例を挙げることで、実践的な視点を示しています。

小論文力を高めるためのシリーズまとめ

全15回にわたる「思考力を鍛える小論文術:看護学科志望者のための実践ガイド」も、いよいよ最終回です。ここでは、これまでの内容を振り返り、看護学科の小論文対策として特に重要なポイントをまとめてみましょう。

1. 看護小論文の基本

看護学科の小論文には、以下のような特徴があります。

  • 医療・看護に関する基本的知識や理解が問われる
  • 「患者中心」「生活者の視点」など看護の視点が重視される
  • 単なる知識ではなく、思考力や価値観が評価される
  • 論理的思考力と共感性のバランスが求められる

小論文を書く際の基本的な流れは以下の通りです。

  1. 課題文を丁寧に読み、テーマと論点を把握する
  2. 自分の主張と根拠を明確にする
  3. 序論・本論・結論の構成を立てる
  4. 具体例を交えながら論理的に記述する
  5. 看護の視点を意識して結論づける

2. 看護小論文で重視される視点

看護学科の小論文で特に重視される視点として、以下のようなものが挙げられます。

患者中心の視点

医療者視点だけでなく、患者の立場に立って考える姿勢が重要です。

例文:「医療の高度化が進む一方で、患者が『何を大切にしたいか』という価値観に基づいた選択を支援することが、これからの医療には不可欠である」

生活者としての視点

疾患だけでなく、患者の生活全体を視野に入れる視点が求められます。

例文:「糖尿病患者への指導は、単に食事内容や運動方法を伝えるだけでなく、その人の職業、家族構成、趣味など生活全体を理解した上で、実現可能な方法を共に考えることが重要である」

多角的な視点

問題を一面的ではなく、多角的に捉える姿勢が評価されます。

例文:「認知症患者のケアでは、医学的側面だけでなく、心理的側面、社会的側面、そして倫理的側面からも検討する必要がある」

共感と客観性のバランス

感情に流されすぎず、かといって冷たすぎない、バランスの取れた視点が大切です。

例文:「患者の苦痛や不安に共感しながらも、専門的知識に基づいた客観的な判断を行うことが、看護師には求められる」

3. 表現力を高めるためのテクニック

以下のようなテクニックを活用することで、より説得力のある文章を書くことができます。

具体例の活用

抽象的な議論だけでなく、具体的な事例を挙げることで、説得力が増します。

例文:「コミュニケーションの重要性について理解したのは、祖母が入院した際、看護師が『どうしました?』ではなく『何かお困りのことはありますか?』と声をかけた場面を見たときだった。この小さな言葉の違いが、祖母の不安を和らげていたのである」

比較と対比

二つの考え方を比較することで、自分の主張をより明確にできます。

例文:「従来の『医学モデル』では疾患の治療が中心だったのに対し、『生活モデル』では患者のQOL向上が重視される」

トピックセンテンスの活用

段落の冒頭で主題を明確に示すことで、読み手に伝わりやすくなります。

例文:「看護師に求められる資質として、私は特に『観察力』を重視したい。例えば…」

自分の経験と結びつける

抽象的な議論を自分の具体的な経験と結びつけることで、説得力と個性が生まれます。

例文:「私がチーム医療の重要性を実感したのは、ボランティアで訪れた老人ホームで、看護師、介護士、リハビリ専門職が連携して一人の高齢者を支える姿を目の当たりにしたときだった」

4. 看護小論文のよくあるテーマと対策

看護学科の小論文でよく出題されるテーマと、それに対するアプローチ方法を確認しておきましょう。

1) 医療と人間関係

患者-医療者関係、チーム医療における人間関係などがテーマとなります。

アプローチ:信頼関係の重要性、コミュニケーションの工夫、多職種連携の意義などを、具体例を交えて論じる。

2) 看護と倫理

患者の権利尊重、インフォームドコンセント、終末期医療などの倫理的問題がテーマとなります。

アプローチ:倫理的原則(自律尊重、善行、無危害、公正)に触れながら、具体的な事例での倫理的判断のプロセスを述べる。

3) 医療と技術

医療技術の進歩と課題、AIやロボットの導入、遠隔医療などがテーマとなります。

アプローチ:技術のメリットと課題をバランスよく論じ、「人にしかできないケア」の本質について自分の考えを示す。

4) 共生社会と看護

多様性、障害者や高齢者の支援、健康格差などがテーマとなります。

アプローチ:多様性を尊重することの意義、個別性に応じたケアの重要性、社会的包摂への貢献などを論じる。

5) 看護師を目指す理由

志望動機を問う問題も頻出です。

アプローチ:単なるエピソードの羅列や感動体験ではなく、その経験から何を学び、どのような看護観を形成したのかを深く掘り下げる。

5. 本番で力を発揮するために

最後に、本番の入試で実力を発揮するためのアドバイスをまとめておきます。

日頃からの準備

  • 医療・看護に関するニュースや記事に関心を持つ
  • 様々な角度から物事を考える習慣をつける
  • 自分の考えを言語化し、論理的に説明する練習をする
  • 時間を計って小論文を書く練習を重ねる

本番での心構え

  • 落ち着いて課題文を読み、問われていることを正確に把握する
  • 時間配分を意識して取り組む
  • 結論から書き始めるのではなく、序論・本論・結論の構成を意識する
  • 看護の視点を忘れずに、自分の考えを誠実に表現する

見直しのポイント

  • 問いに対して適切に答えているか
  • 主張と根拠が明確か
  • 具体例が適切に用いられているか
  • 誤字・脱字はないか
  • 文と文、段落と段落のつながりは自然か

おわりに

全15回にわたる「思考力を鍛える小論文術:看護学科志望者のための実践ガイド」はいかがでしたか?小論文は、単なる知識の量や文章の美しさだけでなく、あなたの思考力や看護に対する姿勢、人間性そのものが問われる試験です。

小論文を書く力は、看護学科の入試に合格するためだけのものではありません。論理的に考え、自分の考えを適切に表現する力は、看護師になってからも、患者さんやご家族との関わり、チーム医療での意見交換、看護研究など、様々な場面で活かされます。

この連載が、皆さんの小論文対策の一助となれば幸いです。皆さんが志望校に合格し、理想の看護師に近づいていけるよう、心から応援しています!

あんちも

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思考力を鍛える小論文術:看護学科志望者のための実践ガイド:第11回 「チーム医療の視点からの考察」

こんにちは。あんちもです。

前回は「患者さんとの対話を想定した記述」について解説しました。今回は「チーム医療の視点からの考察」をテーマに、多職種連携の重要性、チーム医療における看護師の役割、そして協働のための具体的なアプローチについて解説します。

現代の医療現場では、一人の医療者だけで患者さんのケアを完結することはほぼ不可能です。医師、看護師、薬剤師、理学療法士、作業療法士、管理栄養士、医療ソーシャルワーカーなど、様々な専門職がそれぞれの専門性を活かしながら連携することで、より質の高い医療・ケアが実現されます。これが「チーム医療」の基本的な考え方です。

看護学科の小論文や面接では、このチーム医療の視点を持っているかどうかが問われることが多いのです。今回は、チーム医療についての理解を深め、それを小論文で論理的に表現するための方法を学んでいきましょう。

チーム医療の基本的な考え方

まず、チーム医療とは何かについて整理しておきましょう。

チーム医療の定義

チーム医療とは、「複数の医療専門職が、それぞれの専門性を活かしながら、共通の目標(患者さんの健康回復・維持・向上)に向かって協働すること」と定義できます。単なる分業ではなく、情報共有・意思決定・実践・評価のすべての過程において協働することが特徴です。

チーム医療が求められる背景

近年、チーム医療がより重視されるようになった背景には、以下のような要因があります。

  1. 医療の高度化・複雑化:医療技術の進歩により、一人の専門職が全ての知識・技術を習得することが困難になった
  2. 高齢化と慢性疾患の増加:疾病構造の変化により、長期的・多角的なケアが必要になった
  3. 患者中心の医療への転換:治療だけでなく、QOL(生活の質)の向上や社会復帰支援など、包括的なケアが求められるようになった
  4. 医療安全の重視:複数の目で確認し合うことでヒューマンエラーを防止する必要性が高まった

チーム医療の基本原則

効果的なチーム医療を実践するためには、いくつかの基本原則があります。

  1. 相互理解と尊重:各職種の専門性と役割を理解し、互いを尊重する
  2. 目標の共有:患者さんの状態改善という共通の目標を持つ
  3. 効果的なコミュニケーション:情報を正確に共有し、意見交換を活発に行う
  4. リーダーシップとフォロワーシップ:状況に応じて適切にリードし、また支援する
  5. 継続的な評価と改善:チームの機能を常に評価し、より良い連携を目指す

チーム医療における看護師の役割

チーム医療の中で、看護師はどのような役割を担っているのでしょうか。

1. ケアのコーディネーター

看護師は、患者さんに最も身近な存在として、様々な職種とのつなぎ役を担います。患者さんのニーズを把握し、必要な専門職の介入を調整するのは重要な役割です。

: 脳卒中後のリハビリが必要な患者さんに対して、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士との連携調整や、自宅退院に向けて医療ソーシャルワーカーとの調整を行う。

2. 患者・家族の代弁者(アドボケイター)

患者さんや家族の思いや希望を他の医療職に伝える役割も担います。特に意思表示が難しい患者さんの場合、日常的なケアを通じて把握した患者さんの意向を代弁することが大切です。

: 認知症の患者さんの場合、言葉では表現できなくても表情や反応から推測される思いを、カンファレンスの場で伝える。

3. 情報の集約・発信者

看護師は24時間体制で患者さんを観察しているため、多くの情報を持っています。この情報を適切に集約し、他職種に伝えることで、適切な治療やケアの方向性を決定する手助けをします。

: バイタルサインの変化、食事摂取量、睡眠状態、疼痛の程度など、日常的な観察情報を医師や他職種に報告し、治療方針の決定に貢献する。

4. チームの調整役(ファシリテーター)

カンファレンスなどの場で、議論が建設的に進むよう調整したり、意見の対立がある場合に橋渡しをしたりする役割も看護師が担うことが多いです。

: 退院カンファレンスで、医師の「もう少し入院継続が望ましい」という医学的見解と、患者・家族の「早く自宅に帰りたい」という希望の間で折り合いをつける調整を行う。

5. ケアの実践者・教育者

他職種と協働しながら、日常生活援助や医療処置などのケアを直接提供します。また、患者さんや家族に対して、自己管理方法や生活上の注意点などを教育する役割も担います。

: 糖尿病患者さんに対して、管理栄養士の立てた食事計画に基づき、実際の食事選択の仕方を指導する。

多職種それぞれの専門性と看護との連携ポイント

チーム医療について考察する際には、各職種の専門性を理解し、どのように連携するかという視点が重要です。主な職種との連携ポイントを見ていきましょう。

医師との連携

医師の専門性: 診断・治療方針の決定、治療の実施 連携ポイント:

  • 患者の状態変化を的確に報告する
  • 治療方針について患者・家族の理解を促進する
  • 医学的な視点だけでなく、生活者としての視点も提供する

薬剤師との連携

薬剤師の専門性: 薬物療法の安全性・有効性の確保、副作用モニタリング 連携ポイント:

  • 服薬状況や副作用の情報を共有する
  • 複雑な投薬スケジュールの管理方法を相談する
  • 患者の薬に対する理解度や心配事を伝える

理学療法士(PT)・作業療法士(OT)・言語聴覚士(ST)との連携

PT/OT/STの専門性: 運動機能・日常生活動作・言語機能の回復支援 連携ポイント:

  • リハビリの内容を日常生活ケアに取り入れる
  • 患者の疲労度や痛みの状況を共有する
  • 自主トレーニングの実施状況をフィードバックする

管理栄養士との連携

管理栄養士の専門性: 栄養状態の評価・改善、食事療法の立案 連携ポイント:

  • 食事摂取量や嗜好の情報を提供する
  • 摂食・嚥下機能に関する情報を共有する
  • 栄養指導の内容を日常のケアに反映させる

医療ソーシャルワーカー(MSW)との連携

MSWの専門性: 社会資源の活用支援、退院調整、経済的問題への対応 連携ポイント:

  • 患者・家族の生活背景や社会的ニーズを共有する
  • 退院後の生活で予測される困難を伝える
  • 地域連携に関する情報を活用する

チーム医療に関する小論文の書き方

チーム医療をテーマにした小論文では、以下のポイントを意識して書きましょう。

1. チーム医療の意義を明確に示す

冒頭で、なぜチーム医療が必要なのか、その意義や背景を簡潔に述べることで、問題意識を示しましょう。

例文: 「医療の高度化・専門化が進む現代において、患者さんを中心とした質の高いケアを提供するためには、様々な専門職が協働するチーム医療が不可欠である。チーム医療によって、多角的な視点からの評価が可能となり、患者さんの身体的・精神的・社会的側面を包括的に支援することができる。」

2. 具体的な事例を挙げる

抽象的な議論だけでなく、具体的な事例を挙げることで、チーム医療の実際をイメージしやすくしましょう。

例文: 「例えば、脳卒中で入院した高齢患者の場合、医師による薬物療法や急性期治療、看護師による日常生活援助、理学療法士・作業療法士によるリハビリテーション、言語聴覚士による嚥下・言語訓練、管理栄養士による栄養管理、医療ソーシャルワーカーによる退院支援など、多職種が連携することで、患者の回復と社会復帰を包括的に支援することができる。」

3. 職種間の連携における課題と解決策を考察する

チーム医療における課題を指摘し、その解決策を提案することで、問題解決能力をアピールしましょう。

例文: 「しかし、職種間の連携においては、専門用語の違いによるコミュニケーション障壁や、専門性の相互理解不足などの課題が存在する。これらを解決するためには、定期的なカンファレンスの開催、電子カルテなどの情報共有ツールの活用、多職種合同の研修会などが有効である。また、各職種がお互いの専門性を尊重しつつ、自らの役割の境界を柔軟に考える姿勢も重要である。」

4. 看護師の役割を具体的に述べる

看護学科の受験生として、チーム医療における看護師の役割を具体的に述べることは非常に重要です。

例文: 「チーム医療において看護師は、24時間患者に寄り添うケアの実践者であると同時に、多職種をつなぐコーディネーターとしての役割も担っている。患者の日常生活における変化や思いを敏感に察知し、それを他職種に適切に伝えることで、より患者中心のケアが実現される。例えば、リハビリの成果を日常生活に取り入れたり、栄養士の立てた栄養計画を踏まえた食事介助を行ったりすることで、各専門職の介入効果を最大化することができる。」

5. 自分の考えや展望を述べる

最後に、チーム医療について自分はどう考えるか、将来看護師としてどのようにチーム医療に貢献したいかなど、自分の考えを述べましょう。

例文: 「私は、チーム医療の本質は『患者中心』という理念にあると考える。各専門職がそれぞれの専門性を発揮することも重要だが、最終的には患者の望む生活の実現に向けて協働することが目的である。将来看護師として、私は患者の声に耳を傾け、その思いをチームに伝えるアドボケイトとしての役割を大切にしたい。また、各職種の専門性を理解し尊重する姿勢と、効果的なコミュニケーション能力を身につけることで、チーム医療の要となる看護師を目指したい。」

チーム医療に関する小論文でよくある間違いと対策

チーム医療をテーマにした小論文では、以下のような間違いがよく見られます。これらを避けることで、より質の高い小論文を書くことができるでしょう。

1. 各職種の役割を単に列挙するだけ

問題点: 各職種の役割を単に箇条書きのように列挙するだけでは、チーム医療の本質である「連携」や「協働」の視点が欠けています。

対策: 各職種がどのように情報を共有し、どのように協働して患者ケアに取り組むのかという連携のプロセスや方法にも言及しましょう。

2. 看護師の役割を過大評価または過小評価する

問題点: 「看護師がチーム医療の中心である」と強調しすぎる、または逆に看護師の役割に触れないという両極端があります。

対策: 各職種がそれぞれの専門性を活かして対等に協働するのがチーム医療の基本です。その中での看護師の特徴的な役割を適切に位置づけましょう。

3. 抽象的な表現に終始する

問題点: 「連携が大切」「情報共有が重要」などの抽象的な表現だけでは、具体性に欠けます。

対策: 具体的な疾患や場面を想定し、そこでの多職種連携の実際を具体的に描写しましょう。

4. チーム医療の難しさや課題に触れない

問題点: チーム医療の理想的な側面だけを強調し、実際の難しさや課題に触れないと、現実的な理解が不足していると判断されることがあります。

対策: 職種間の価値観や専門用語の違い、時間調整の難しさなど、チーム医療の課題と、それをどう乗り越えるかについても言及しましょう。

5. 患者・家族の視点を忘れる

問題点: 医療者側の視点だけで論じると、チーム医療の目的である「患者中心の医療」という視点が欠けます。

対策: チーム医療が最終的に患者・家族にどのようなメリットをもたらすのか、患者・家族もチームの一員であるという視点を盛り込みましょう。

実践演習:チーム医療に関する小論文を書いてみよう

以下のテーマで小論文を書く練習をしてみましょう。

テーマ:「チーム医療における看護師の役割と多職種連携の重要性について、あなたの考えを600字程度で述べなさい。」

解答例

現代の医療現場では、複雑化・高度化する患者ニーズに応えるため、多職種が専門性を活かして協働するチーム医療が不可欠となっている。チーム医療とは単なる分業ではなく、患者を中心に各専門職が情報共有し、共通の目標に向かって協働するプロセスである。本稿では、チーム医療における看護師の役割と多職種連携の重要性について考察する。 チーム医療において看護師は、三つの重要な役割を担っていると考える。第一に、患者に最も身近な存在として、24時間体制で得られる生活状況や症状の変化などの情報を、多職種に橋渡しする「連携の要」としての役割がある。例えば、リハビリの進捗状況を管理栄養士に伝え、嚥下機能に応じた食事形態の調整を提案するなど、職種間の情報をつなぐ役割は大きい。 第二に、患者・家族の「代弁者」としての役割がある。医療者と患者の間には知識や立場の非対称性があり、患者は自身の希望や疑問を十分に表現できないことがある。看護師は日常のケアを通じて患者の思いを汲み取り、他職種に伝えることで、より患者中心のケアを実現できる。 第三に、チーム全体の「調整役」としての役割がある。職種間で意見の相違がある場合に、患者の最善の利益を考慮した調整を行うことも、看護師の重要な役割である。 しかし、効果的なチーム医療の実現には課題も存在する。専門用語の違いによるコミュニケーション障壁、時間調整の難しさ、役割の重複や空白などである。これらを解決するためには、定期的なカンファレンスの開催、電子カルテなどの情報共有ツールの活用、そして何より各職種が互いの専門性を理解し尊重する姿勢が重要である。 私は将来、患者の生活の質向上を目指して、多職種と協働できる看護師になりたい。そのために、幅広い医療知識を身につけるとともに、円滑なコミュニケーション能力や調整力を磨いていきたいと考えている。

ポイント解説

  • 冒頭でチーム医療の定義と必要性を簡潔に述べています
  • 看護師の役割を「連携の要」「代弁者」「調整役」という3つの視点から具体的に説明しています
  • 具体例を挙げることで抽象的な議論に終わらないよう工夫しています
  • チーム医療の課題とその解決策にも言及しています
  • 最後に自分の将来の展望を述べ、課題意識を示しています

まとめと次回予告

今回は「チーム医療の視点からの考察」について解説しました。チーム医療の基本的な考え方、看護師の役割、多職種との連携ポイント、そして小論文の書き方のポイントを学びました。

チーム医療は、現代の医療において欠かせない概念であり、看護学科の入試でも重要なテーマとなっています。単に各職種の役割を理解するだけでなく、「連携」「協働」「患者中心」という視点から、チーム医療の本質を捉えることが大切です。

日頃から医療ニュースや医療ドラマなどを見る際にも、「ここでどのような多職種連携が行われているか」「看護師はどのような役割を担っているか」という視点で観察してみると、理解が深まるでしょう。

次回は「看護の専門性と社会貢献」について解説します。看護の専門性とは何か、そして看護師がどのように社会に貢献できるかについて考えていきましょう。

皆さんの小論文学習が実り多きものになることを願っています!