こんにちは。あんちもです。
前回は「自己の経験を看護に結びつける」について解説しました。今回から2回にわたって「模擬問題演習」を行います。これまで学んできた小論文の書き方のポイントを活かして、実際の看護学科入試で出題されるような問題に取り組んでみましょう。
模擬問題演習では、課題文の読み解き方から論理的な文章の組み立て方まで、総合的に学ぶことができます。また、実際に制限時間を設けて取り組むことで、本番の入試を想定した練習になります。
今回は2つの模擬問題を用意しました。それぞれの問題について、課題文の読み解き方、論点の整理、構成の立て方、そして解答例と解説を提供します。ぜひ、自分でも解答を作成してみてください。
模擬問題1:医療と人間関係
問題
以下の課題文を読み、問いに答えなさい。
現代の医療現場では、高度な医療技術の発展により、かつては治療が困難だった疾患の多くが治療可能になってきました。一方で、医療の高度化・専門化に伴い、医療者と患者の関係性も変化しています。「医学モデル」では疾患の治療に焦点が当てられ、患者は治療の対象として位置づけられがちでした。これに対し、近年では「生活モデル」が重視され、患者の生活や価値観を尊重する医療が求められています。
また、インターネットの普及により、患者も医療情報に容易にアクセスできるようになり、医療者と患者の情報格差が縮小しています。こうした変化の中で、医療者には専門的知識や技術だけでなく、患者との信頼関係を構築するコミュニケーション能力がより一層求められるようになっています。
しかし、医療現場の多忙さや業務の効率化が進む中で、患者とじっくり向き合う時間の確保が難しいという課題も指摘されています。医療者と患者の良好な関係構築は、治療効果にも影響するとされており、医療の質向上のためには欠かせない要素です。
問い:現代の医療における「人間関係」の重要性について、あなたの考えを600字程度で述べなさい。
課題文の読み解き方
まずは課題文を丁寧に読み、何がテーマとなっているか、どのような論点が含まれているかを整理しましょう。
テーマ:現代の医療における「人間関係」の重要性
課題文のポイント:
- 医療の高度化・専門化が進み、「医学モデル」から「生活モデル」への転換が起きている
- インターネットの普及により患者も医療情報にアクセスできるようになった
- 医療者と患者の信頼関係構築が重要になっている
- 多忙さや業務効率化の中で患者とじっくり向き合う時間確保が難しい
- 医療者と患者の良好な関係は治療効果にも影響する
論点の整理
この問題に対して、以下のような論点が考えられます。
- なぜ現代の医療において人間関係が重要なのか
- 治療効果への影響
- 患者中心の医療の実現
- 治療方針の共有と自己決定の支援
- 医療者と患者の関係性の変化
- 情報格差の縮小
- 患者の主体性の増大
- 医療者の役割の変化
- 人間関係構築の課題と工夫
- 時間的制約の中での効果的なコミュニケーション
- チーム医療の中での役割分担
- ICTの活用と限界
- 看護師の立場から見た人間関係の意義
- 24時間患者に寄り添う立場としての特性
- 医師と患者をつなぐ役割
- 患者の生活全体を視野に入れたケア
構成の立て方
600字程度という字数制限を考慮すると、すべての論点を深く掘り下げることは難しいため、特に重要と思われる点に絞り込んで論じる必要があります。例えば以下のような構成が考えられます。
序論(約100字):
- 現代医療における人間関係の位置づけについて端的に述べる
- 自分の主張(人間関係が重要である理由)を簡潔に示す
本論(約400字):
- 人間関係が重要な理由を2〜3点挙げて説明する
- 具体例や自分の経験も交えながら説得力を持たせる
- 人間関係構築の課題と解決策についても触れる
結論(約100字):
- 医療における人間関係の重要性を再確認する
- 看護師を目指す立場からの決意や展望を述べる
解答例
現代の医療において、人間関係の重要性はますます高まっている。医療技術の高度化が進み、治療の選択肢が増える中で、患者の価値観や生活背景を考慮した医療が求められるようになった。また、インターネットの普及により患者の医療情報へのアクセスが容易になり、医療者と患者の関係性も変化している。このような背景から、現代医療における人間関係の重要性について考察する。 医療における人間関係が重要である第一の理由は、治療効果への直接的な影響である。医療者と患者の間に良好な関係が構築されると、患者の治療への信頼感や前向きな姿勢が生まれ、治療効果の向上につながる。例えば、術後のリハビリテーションでは、患者の不安や痛みを理解し、励ましながら支援することで、患者の回復意欲が高まり、結果的に早期回復につながることが多い。 第二に、患者中心の医療を実現するためには、患者の価値観や生活背景を理解することが不可欠である。同じ疾患でも、患者によって望む生活や優先する価値は異なる。医療者が患者としっかりとした関係性を築き、対話を重ねることで、その患者にとって最適な治療方針を共に見出すことができる。 一方で、医療現場の多忙さの中で、患者との関係構築に時間を確保することは容易ではない。しかし、限られた時間でも患者の話に耳を傾け、目線を合わせることで信頼関係の基盤を作ることは可能である。また、チーム医療の中で情報を共有し、患者に一貫したケアを提供することも重要である。 看護師は24時間患者に寄り添い、医師と患者をつなぐ役割も担う。だからこそ、患者との関係構築において中心的な役割を果たすことができる。私は将来、専門的知識や技術の習得に努めるとともに、一人ひとりの患者と真摯に向き合い、信頼関係を築ける看護師を目指したい。
解説
この解答例では、以下のポイントを押さえています。
- 序論では、課題文の要点を簡潔にまとめながら、テーマを提示しています。
- 本論では、医療における人間関係が重要な理由を「治療効果への影響」と「患者中心の医療の実現」という2つの観点から説明しています。
- さらに、人間関係構築の課題と工夫についても触れ、現実的な視点を示しています。
- 結論では、看護師の立場から見た人間関係の意義に触れ、自分自身の決意も述べることで締めくくっています。
- 全体を通して、抽象的な議論にとどまらず、リハビリテーションの例など具体的な事例を挙げることで説得力を高めています。
模擬問題2:看護と倫理
問題
以下の課題文を読み、問いに答えなさい。
近年、医療技術の進歩により、人の生命や健康に関わる様々な選択が可能になりました。例えば、延命治療の選択、遺伝子検査による疾病リスクの予測、生殖補助医療の発展などです。これらの技術の発展は多くの恩恵をもたらす一方で、「何ができるか」ではなく「何をすべきか」という倫理的な問いを私たちに投げかけています。
医療現場では、患者の権利と自己決定の尊重、公平性の確保、プライバシーの保護などの倫理的原則が重視されています。しかし実際の医療現場では、患者の意思と家族の希望が異なる場合や、限られた医療資源の中での公平な分配、患者の最善の利益と自己決定権の間での葛藤など、様々な倫理的ジレンマが生じることがあります。
看護師は患者に最も身近な医療者として、こうした倫理的問題に日常的に向き合っています。患者の意思を尊重しながらも、その人の最善の利益を考え、さらには家族や社会的側面も考慮した倫理的判断が求められるのです。
問い:医療現場における倫理的問題について、あなたが重要だと考える倫理的原則や価値観を挙げ、具体的な事例を交えながら600字程度で述べなさい。
課題文の読み解き方
この課題文では、医療技術の進歩に伴う倫理的問題と、看護師がそれらにどう向き合うかがテーマとなっています。
テーマ:医療現場における倫理的問題と看護師の役割
課題文のポイント:
- 医療技術の進歩により「何をすべきか」という倫理的問いが重要になっている
- 医療現場では患者の権利尊重、公平性、プライバシー保護などの倫理的原則が重視されている
- 実際の医療現場では様々な倫理的ジレンマが生じる
- 看護師は患者に最も身近な医療者として倫理的問題に向き合っている
論点の整理
この問題に対して、以下のような論点が考えられます。
- 医療倫理の基本原則
- 自律尊重(患者の自己決定権)
- 善行(患者に最善の利益をもたらす)
- 無危害(害を与えない)
- 公正(公平な医療資源の分配)
- 具体的な倫理的ジレンマの事例
- 終末期医療における延命治療の是非
- 認知症患者のケアにおける自由と安全のバランス
- 患者の意思と家族の希望の相違
- 医療資源の限界と公平な分配
- 看護師の倫理的判断と行動
- 患者の代弁者(アドボケイト)としての役割
- 多職種チームでの倫理的議論への参加
- 患者と医療者の橋渡し役
構成の立て方
600字という制限の中で、自分が重要と考える倫理的原則を絞り込み、具体的な事例と結びつけて論じる必要があります。例えば以下のような構成が考えられます。
序論(約100字):
- 医療技術の進歩と倫理的問題の関係性について述べる
- 自分が特に重要だと考える倫理的原則を簡潔に示す
本論(約400字):
- 選んだ倫理的原則について詳しく説明する
- 具体的な事例を挙げて、その原則がどのように適用されるか説明する
- 原則間の葛藤が生じる場合の考え方にも触れる
結論(約100字):
- 看護師として倫理的問題にどう向き合うかという自分の考えをまとめる
- 今後の医療現場での倫理的課題への展望を述べる
解答例
医療技術の進歩は多くの恩恵をもたらす一方で、様々な倫理的問題を生じさせている。医療現場における倫理的判断において、私は特に「患者の自律尊重」と「患者の最善の利益(善行)」という二つの原則のバランスが重要だと考える。 患者の自律尊重とは、十分な情報提供の上での患者自身による決定を尊重することである。例えば、終末期の患者が「これ以上の積極的な治療は望まない」と意思表示した場合、その決定は尊重されるべきである。しかし同時に、医療者には患者の最善の利益を考慮する責任もある。この二つの原則が時に相反するケースとして、認知症のある高齢患者が「点滴を抜きたい」と繰り返す場合が挙げられる。この場合、単に「患者の意思だから」と点滴を中止することは、脱水などのリスクを伴い、患者の最善の利益に反する可能性がある。 このようなジレンマに対して、私は以下の視点が重要だと考える。第一に、患者の意思表示の背景にある思いや価値観を丁寧に理解することである。単なる言葉だけでなく、その人の生活史や大切にしてきた価値観を踏まえた理解が必要である。第二に、患者、家族、医療者間での対話を通じた合意形成である。一度の判断で終わらせるのではなく、状況の変化に応じて継続的に話し合うプロセスが大切だ。 看護師は患者に最も身近な存在として、患者の言葉にならない思いを察知し、代弁する役割を担う。同時に、医学的な側面からの判断も考慮した上で、患者にとって最善の道を多職種チームで模索する必要がある。私は将来、倫理的感受性を磨き、患者の尊厳を守りながらも、その人の真の幸福につながる看護を提供できる看護師になりたいと考えている。
解説
この解答例では、以下のポイントを押さえています。
- 序論では、医療技術の進歩と倫理的問題の関係性に触れつつ、特に重要と考える倫理的原則「患者の自律尊重」と「患者の最善の利益」を提示しています。
- 本論では、これらの原則について説明し、終末期医療と認知症患者のケアという具体的な事例を挙げて、原則間の葛藤が生じる場合の考え方を示しています。
- さらに、倫理的ジレンマに対する自分なりの考え方として、「患者の意思表示の背景理解」と「対話による合意形成」という二つの視点を提案しています。
- 結論では、看護師の倫理的役割に触れつつ、自分自身の将来の看護師像を述べて締めくくっています。
- 全体を通して、抽象的な原則論だけでなく、具体的な事例と結びつけることで、実践的な倫理観を示しています。
模擬問題挑戦のためのアドバイス
実際に模擬問題に取り組む際には、以下のポイントを意識してみてください。
1. 時間配分を意識する
実際の入試では時間制限があります。模擬問題に取り組む際も、以下のような時間配分を意識しましょう。
- 課題文読解と構想:15分
- 下書き:15分
- 清書:15分
- 見直し:5分
合計50分程度で解答を完成させる練習をしておくと良いでしょう。
2. 課題文を丁寧に読み込む
課題文には、論じるべき内容のヒントが含まれています。読み飛ばさずに丁寧に読み込み、キーワードや重要な論点を把握しましょう。また、課題文を引用しながら自分の主張を補強することも効果的です。
3. 自分の考えを明確にする
「自分はこの問題についてどう考えるか」という自分自身の立場や主張を明確にしましょう。単に一般論を述べるだけでなく、なぜそう考えるのか、その根拠や具体例も含めて述べることが重要です。
4. 具体例や自分の経験を交える
抽象的な議論だけでなく、具体的な事例や自分の経験を交えることで、説得力のある文章になります。ただし、あくまでも主張を補強するための具体例であり、エピソードの羅列にならないよう注意しましょう。
5. 看護の視点を意識する
看護学科の入試であることを意識し、医療や健康、人間関係などのテーマについて、看護の視点からの考察を含めるようにしましょう。「看護師を目指す自分はこの問題にどう向き合うか」という視点を持つことが重要です。
6. 論理的な構成を心がける
序論・本論・結論という基本的な文章構成を意識し、主張とその根拠が明確に伝わるように書きましょう。また、段落の冒頭で段落の主題を示す「トピックセンテンス」を置くと、読み手に伝わりやすい文章になります。
7. 推敲する習慣をつける
時間に余裕があれば、書き終えた文章を読み返し、誤字脱字や論理の飛躍がないかチェックしましょう。また、文と文、段落と段落のつながりが自然かどうかも確認します。
まとめと次回予告
今回は、「医療と人間関係」と「看護と倫理」という2つのテーマで模擬問題演習を行いました。これらのテーマは、看護学科の入試でよく出題される重要なテーマです。課題文の読み解き方、論点の整理、構成の立て方、そして解答例と解説を通じて、小論文の書き方の実践的なポイントを学びました。
自分で実際に解答を書いてみることで、自分の考えを整理し、論理的に表現する力が身につきます。ぜひ、制限時間を設けて取り組んでみてください。また、書いた解答を友人や先生に読んでもらい、客観的な意見をもらうことも上達の近道です。
次回は「模擬問題演習②」として、「医療と技術」と「共生社会と看護」というテーマで模擬問題に取り組みます。今回の学びを活かして、さらに小論文力を高めていきましょう。
皆さんの小論文学習が実り多きものになることを願っています!