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思考力を鍛える小論文術:看護学科志望者のための実践ガイド:第10回 「患者さんとの対話を想定した記述」

こんにちは。あんちもです。

前回は「看護現場の課題発見と解決策の提案」について解説しました。今回は「患者さんとの対話を想定した記述」をテーマに、患者さんとのコミュニケーションを文章で表現する方法や、患者さんの心情に寄り添った対応の書き方について解説します。

看護の現場では、患者さんとの信頼関係を築くコミュニケーション能力が非常に重要です。そして、看護学科の小論文や面接では、「患者さんへの声かけ」や「患者さんとの会話」を想定して記述する問題がよく出題されます。この回では、患者さんの気持ちを理解し、適切な言葉で対応できる力を、文章表現を通して身につけていきましょう。

患者さんとの対話を想定した記述の意義

看護学科の入試で「患者さんとの対話」を問う問題が出題される理由は主に3つあります。

1. コミュニケーション能力の評価

看護師にとって患者さんとのコミュニケーション能力は必須のスキルです。言葉の選び方、伝え方によって、患者さんの不安を和らげることも、逆に増幅させてしまうこともあります。対話を想定した記述は、受験生のコミュニケーション感覚を評価する手段となります。

2. 共感性・人間性の評価

患者さんの立場に立って考え、気持ちに寄り添える人間性があるかどうかは、看護師として重要な資質です。対話の記述を通して、受験生の共感性や人間観を間接的に評価できます。

3. 看護観の評価

患者さんへの言葉かけの中には、自分の看護観が自然と表れます。「看護とは何か」「患者さんとはどういう存在か」といった根本的な考え方が、対話の記述に反映されるのです。

対話記述問題の典型パターン

看護学科の小論文や面接でよく出題される対話記述問題には、いくつかのパターンがあります。

1. 不安を抱える患者さんへの声かけ

例題: 「手術を翌日に控えた患者さんが『怖くて眠れない』と訴えています。あなたならどのように声をかけますか。」

2. 治療への拒否感を示す患者さんへの対応

例題: 「糖尿病の治療のため食事制限が必要な患者さんが『こんな食事じゃ生きている意味がない』と言っています。あなたならどう対応しますか。」

3. 子どもや高齢者など特定の患者層への対応

例題: 「初めて入院する5歳の子どもが泣いて親と離れたがらない場面での対応を考えなさい。」

4. 家族への説明や支援

例題: 「認知症の親の介護に疲れ果てている家族に対して、あなたならどのように声をかけますか。」

5. 多職種連携の場面での対話

例題: 「患者さんの退院計画について、医師との意見が異なる場面での対話を想定して記述しなさい。」

対話記述のための3つの基本ステップ

患者さんとの対話を適切に記述するためには、以下の3つのステップを意識しましょう。

1. 患者さんの心理状態を分析する

まず、問題文から患者さんの置かれている状況や心理状態を分析します。

例えば:

  • 不安の原因は何か(手術への恐怖、予後への不安、家族への心配など)
  • 怒りや拒否の背景にある感情(無力感、孤独感、自己価値の低下など)
  • 文化的背景や価値観の影響
  • 年齢や認知機能による理解度の違い

2. 対応の基本方針を決める

患者さんの心理状態を踏まえ、対応の基本方針を決めます。

代表的な方針:

  • 傾聴と共感を中心とする
  • 情報提供と説明を重視する
  • 自己決定を支援する
  • 具体的な解決策を提案する
  • 専門職として支持的な姿勢を示す

3. 具体的な言葉に落とし込む

基本方針に基づいて、具体的にどのような言葉で対応するかを考えます。この際、以下のポイントに注意しましょう。

  • 患者さんの言葉(感情)を否定しない
  • 専門用語を適切に言い換える
  • オープンクエスチョンを活用する
  • 具体的で実行可能な提案をする
  • 非言語的コミュニケーション(表情、姿勢など)にも言及する

対話記述の実践テクニック

1. 「傾聴→共感→情報提供→提案」の流れを意識する

効果的な対話には一定の流れがあります。まず患者さんの話をしっかり聴き(傾聴)、気持ちに寄り添い(共感)、必要な情報を提供し(情報提供)、一緒に解決策を考える(提案)という流れです。

例文: 「手術が怖くて眠れないんですね(傾聴)。不安を感じるのは当然のことだと思います(共感)。明日の手術の流れについてもう少し詳しくお話ししましょうか(情報提供)。リラックスするためにできることもいくつかありますので、一緒に試してみませんか(提案)。」

2. 具体的な表現を心がける

抽象的な言葉よりも、具体的な表現の方が伝わりやすく、説得力があります。

抽象的: 「何か力になれることはありますか?」 具体的: 「今夜眠るためにホットミルクをお持ちしましょうか?また、手術室の様子や麻酔の感覚について質問があれば、お答えできますよ。」

3. 患者さんの言葉を引用する

患者さんの言葉を引用することで、「しっかり聴いている」というメッセージを伝えられます。

例文: 「『こんな食事じゃ生きている意味がない』とおっしゃいましたが、食事の制限がとても辛く感じられているのですね。」

4. 非言語コミュニケーションにも言及する

言葉だけでなく、目線や姿勢、声のトーン、タッチングなどの非言語コミュニケーションも重要です。

例文: 「お子さんの隣に座り、目線を合わせながら、やさしい声で『お名前は何ですか?』と尋ねます。」

5. 患者さんの自己決定を尊重する表現を用いる

患者さんの自律性を尊重し、選択肢を提示する表現を心がけましょう。

一方的: 「この薬を飲んだ方がいいですよ」 自己決定尊重: 「この薬の効果と副作用についてご説明します。どのように判断されますか?」

NG表現と言い換え例

患者さんとの対話では、避けるべき表現があります。以下に代表的なNG表現と適切な言い換え例を紹介します。

1. 否定から入る表現

NG: 「そんなことを心配しても仕方ありません」 OK: 「そのような不安をお持ちなのですね。具体的にどのような点が心配ですか?」

2. 安易な励まし

NG: 「大丈夫、きっとうまくいきますよ」 OK: 「不安な気持ちはとても自然なことです。これまでの手術の経過を見ると、多くの患者さんは順調に回復されています」

3. 命令形の使用

NG: 「薬を必ず飲んでください」 OK: 「お薬を継続的に服用することで、症状の改善が期待できます。一緒に続けていきましょう」

4. 専門用語の多用

NG: 「心筋梗塞の再発リスクを低減するために、抗血小板薬の服用が必要です」 OK: 「心臓の血管が詰まる病気が再び起こらないように、血液をサラサラにするお薬が大切です」

5. 一般化された安易な同意

NG: 「みんな最初はそう思うものですよ」 OK: 「そのようにお感じになるのは自然なことだと思います。もう少し詳しく教えていただけますか?」

場面別対応例

場面1: 手術前の不安

状況: 翌日に初めての手術を控えた60代の患者さんが、夜間不安を訴えている。

対応例: 「明日の手術が心配で眠れないのですね(傾聴)。初めての手術ということで、不安になるのは当然のことだと思います(共感)。」

「具体的にはどのようなことが心配ですか?(オープンクエスチョン)」

(患者が麻酔の不安を話したと仮定して) 「麻酔についてのご心配なのですね。麻酔科の先生は経験豊富で、手術中はずっとあなたの状態を見守っています。また、痛みを感じないように細心の注意を払っています(情報提供)。」

「今夜は、リラックスするために深呼吸の方法をご紹介しましょう。また、温かい飲み物も安眠に役立つかもしれません。どちらがよろしいですか?(提案と選択肢)」

「私も明日の手術に立ち会いますので、一緒に乗り越えていきましょう(支持)。何か他にご質問があればいつでも聞いてくださいね。」

場面2: 治療への拒否感

状況: 糖尿病の治療のため厳格な食事制限を指示された50代男性患者が「こんな食事じゃ生きている意味がない」と発言した。

対応例: 「『こんな食事じゃ生きている意味がない』とおっしゃいましたが、食事制限がとても辛く感じられているのですね(患者の言葉を引用した共感)。」

「食べることが楽しみだったのに、それが制限されることは大変つらいことだと思います(感情の理解)。」

「差し支えなければ、これまではどのような食事を楽しまれていたのか教えていただけますか?(患者理解のための質問)」

「糖尿病の食事療法は、全く楽しみを奪うものではなく、量や組み合わせを工夫することで、美味しく食べながら血糖値をコントロールすることができます(情報提供)。」

「栄養士と相談して、〇〇さんの好みを活かした食事プランを考えることもできますよ。一緒にできそうな方法を探していきませんか?(個別化した提案)」

対話記述の小論文を書く際の注意点

1. 自分の立場(役割)を明確にする

看護学生なのか、看護師なのか、どのような立場で対応するのかを明確にしましょう。立場によって使える言葉や提供できる情報が変わってきます。

2. 現実的な対応を心がける

理想論に走りすぎず、実際の医療現場で実行可能な対応を考えましょう。特に時間的・物理的制約を考慮することが大切です。

3. 患者の反応も想定する

一方的な声かけだけでなく、患者さんの反応も想定し、対話の流れを意識しましょう。患者さんの反応に応じて柔軟に対応する姿勢も示せるとよいでしょう。

4. 根拠を示す

なぜそのような対応をするのかの根拠(理論やエビデンス)を簡潔に示すと、より説得力が増します。

5. 自分の価値観を押しつけない

患者さんの文化的背景や価値観を尊重し、自分の価値観を押しつけないよう注意しましょう。

実践演習:対話記述の小論文を書いてみよう

以下のテーマで小論文を書く練習をしてみましょう。

テーマ:「初めて点滴を受ける5歳の子どもが怖がっている場面での対応について、あなたの考えを600字程度で述べなさい。」

解答例

初めての点滴に怯える5歳児への対応として、私は「安心感の提供」「説明の工夫」「主体性の尊重」「継続的な関わり」の四つの視点から関わりたい。 まず、子どもの目線に合わせて膝をつき、穏やかな表情と優しい声のトーンで「お名前は何かな?」と尋ね、ラポール形成から始める。怖がる気持ちを否定せず、「初めてのことで怖いんだね。そういう気持ち、わかるよ」と共感の言葉をかける。 次に、子どもの理解力に合わせた説明を工夫する。医療器具をそのまま見せるのではなく、「この小さなストローからお水のようなお薬が入って、体の中の悪い虫と戦ってくれるんだよ」など、子どもが理解しやすい表現を用いる。また、人形やぬいぐるみを使ったプレパレーションを行い、視覚的に理解を促すことも効果的である。 子どもの主体性を尊重する関わりも重要だ。「どっちの腕がいいかな?」「テープはキャラクターのがいい?普通のがいい?」など、選択肢を提示し、自己決定の機会を設ける。これにより、子どもは受け身の存在ではなく、治療に参加している感覚を持つことができる。 さらに、点滴中も定期的に訪室し、「とても上手にできているね」「○分経ったよ、あと少しだね」など、励ましと見通しを伝える声かけを続ける。点滴が終わった後には、「とても勇敢だったね。すごいよ」と具体的に褒め、達成感を感じられるような関わりを心がける。 このような関わりは、単に今回の点滴をスムーズに行うだけでなく、子どもの医療への恐怖心を軽減し、将来の治療にも良い影響を与えると考える。また、家族に対しても「お子さんの気持ちに寄り添っていただき、ありがとうございます」と声をかけ、親の不安軽減にも配慮したい。

ポイント解説

  • 冒頭で対応の基本方針を示しています
  • 具体的な声かけの言葉を「」で示しています
  • 非言語コミュニケーション(姿勢、目線、声のトーン)にも言及しています
  • 子どもの発達段階に合わせた説明の工夫を示しています
  • 選択肢を提供する形で子どもの主体性を尊重する姿勢を示しています
  • 点滴中・点滴後のフォローまで言及し、継続的な関わりを示しています
  • 家族への配慮にも触れています

まとめと次回予告

今回は「患者さんとの対話を想定した記述」について解説しました。患者さんとの対話を適切に記述するためには、患者さんの心理状態を分析し、対応の基本方針を決め、具体的な言葉に落とし込むという3つのステップが重要です。また、「傾聴→共感→情報提供→提案」の流れを意識し、具体的な表現や患者さんの言葉の引用、非言語コミュニケーションへの言及、自己決定の尊重など、実践的なテクニックを活用することが大切です。

患者さんとの対話力は、看護師にとって最も重要なスキルの一つです。日常生活の中でも、相手の立場に立って考え、適切な言葉を選ぶ練習を心がけてみてください。そうした積み重ねが、看護師としての対話力の土台となるはずです。

次回は「チーム医療の視点からの考察」について解説します。多職種連携の重要性、チーム医療における看護師の役割、協働のための具体的なアプローチなどについて詳しく学んでいきましょう。

皆さんの小論文学習が実り多きものになることを願っています!