こんにちは。あんちもです。前回は「反論を想定した論述の厚みの出し方」について解説しました。自分の主張に対する反論を先取りして対応することで、論述に深みと説得力を持たせる方法を学びました。
今回のテーマは「専門用語の適切な使用と平易な説明の両立」です。医学部小論文では、医学的な専門用語を適切に用いることで知識と理解力をアピールしつつも、それを誰にでも分かりやすく説明する能力が求められます。この回では、専門用語の効果的な使い方と、難解な概念を平易に説明するコツについて解説します。
医学部小論文における専門用語の重要性と使用バランス
医学部小論文において専門用語の使用は「諸刃の剣」です。適切に使えば評価が上がりますが、使い方を誤ると逆効果になります。その重要性と適切なバランスについて考えてみましょう。
専門用語使用の意義
医学部小論文で適切に専門用語を使用することには、以下のような意義があります:
1. 知識と理解の証明
医学・医療の基本的な専門用語を正しく使用することは、その分野への理解と知識を持っていることの証明になります。例えば、「心筋梗塞」を適切な文脈で用いることができれば、循環器疾患の基礎知識があることが伝わります。
2. 表現の精確性と効率性
専門用語は多くの場合、複雑な概念を簡潔に表現するために存在します。「自己免疫疾患」という一語で、「体の免疫系が自分自身の組織を攻撃してしまう病気」という長い説明を短縮できます。
3. 医療者としての適性のアピール
医療コミュニケーションでは、専門用語と一般的な言葉を状況に応じて使い分ける能力が求められます。小論文でその能力を示すことで、医療者としての適性をアピールできます。
専門用語使用の落とし穴
一方で、専門用語の不適切な使用は以下のような問題を引き起こします:
1. 「専門用語の羅列」による内容の薄さ
専門用語を並べただけで、その意味や関連性について深く考察していないと、表面的で内容の薄い文章になります。
2. 誤用によるマイナス評価
専門用語を誤った文脈や意味で使用すると、かえって理解不足を露呈することになり、大きな減点要因となります。
3. 読み手への配慮不足
過度に専門的な用語だけを使用すると、医学の知識がない読み手(例えば、入試担当の国語教員など)には理解しづらい文章になってしまいます。
理想的なバランス
医学部小論文における専門用語の理想的な使用バランスは以下の通りです:
基本的な医学用語:適切に使用する
専門性の高い用語:使用する場合は簡潔な説明を添える
一般的な言葉:専門用語と組み合わせて文章の流れを作る
このバランスを保つことで、専門知識をアピールしつつも、読みやすく説得力のある文章を書くことができます。
医学部小論文で効果的に使える専門用語のレベル分け
医学的専門用語をレベル別に分類し、小論文での使い方を考えてみましょう。
レベル1:説明不要の基本医学用語
高校生でも知っている(または文脈から意味が推測できる)基本的な医学用語です。これらは説明なしで使用可能です。
例:
- 免疫(immunity)
- 遺伝子(gene)
- インフルエンザ(influenza)
- 心臓発作(heart attack)
- 抗生物質(antibiotics)
- ワクチン(vaccine)
使用例: 「予防接種によって集団免疫を獲得することは、感染症対策の基本である。」
レベル2:簡単な説明を加えるべき中級医学用語
医学の基礎知識がある人なら理解できるが、一般の人には馴染みが薄い用語です。使用する場合は簡単な説明を添えると良いでしょう。
例:
- 生体恒常性(homeostasis)
- 自己免疫疾患(autoimmune disease)
- エビデンスに基づく医療(evidence-based medicine)
- QOL(quality of life)
- インフォームド・コンセント(informed consent)
- 医原性疾患(iatrogenic disease)
使用例: 「自己免疫疾患(体の免疫系が自分自身の組織を攻撃する疾患)の治療では、免疫抑制剤の使用と感染リスクのバランスが重要となる。」
レベル3:詳しい説明が必要な高度専門用語
医学生や医療従事者でないと理解が難しい専門性の高い用語です。使用する場合は詳しい説明が必要です。小論文では、特別な理由がなければ避けるべきでしょう。
例:
- オートファジー(autophagy)
- アポトーシス(apoptosis)
- ミトコンドリア機能不全(mitochondrial dysfunction)
- プロテオスタシス(proteostasis)
- エピジェネティクス(epigenetics)
- サイトカインストーム(cytokine storm)
使用例: 「近年注目されているオートファジー(細胞が自身の成分を分解・再利用する機構)の異常は、様々な神経変性疾患の発症メカニズムに関与していることが示唆されている。」
専門用語の適切な導入と説明の技術
医学部小論文で専門用語を効果的に導入し、分かりやすく説明するための具体的なテクニックを紹介します。
テクニック1:「言い換え」による導入
まず平易な言葉で概念を説明し、その後に専門用語を導入する方法です。
方法: 「〜すなわち(専門用語)」「〜いわゆる(専門用語)」などの表現を使います。
例: 「細胞が計画的に自らの死を迎えるプロセス、すなわちアポトーシスは、がん抑制において重要な役割を果たしている。」
テクニック2:「かっこ書き」による説明
専門用語を使用した後、括弧内に簡潔な説明を加える方法です。
方法: 「専門用語(平易な説明)」の形式で記述します。
例: 「QOL(生活の質)の向上は、現代医療における重要な目標である。」
テクニック3:「具体例」を用いた説明
抽象的な専門用語を具体例と結びつけて説明する方法です。
方法: 「専門用語」の後に「例えば〜」と続けて具体例を示します。
例: 「慢性炎症は様々な疾患の原因となりうる。例えば、動脈硬化は血管壁の慢性炎症により進行することが知られている。」
テクニック4:「比喩」による説明
専門用語の概念を身近なものに例えて説明する方法です。
方法: 「専門用語は〜のようなものである」という形で比喩を用います。
例: 「免疫系は身体の防衛軍のようなものであり、免疫不全はこの防衛システムに穴が開いた状態と言える。」
テクニック5:「段階的説明」の活用
複雑な専門概念を段階的に説明していく方法です。
方法: まず基本概念を説明し、徐々に専門的な内容に進みます。
例: 「ゲノム医療とは、個人の遺伝情報に基づいた医療のことである。人間のDNAには約30億の塩基対があり、その中の僅かな違いが疾患リスクや薬剤反応性の個人差を生み出す。このような遺伝的多様性を分析することで、一人ひとりに最適な予防法や治療法を提供するのがゲノム医療の目的である。」
平易な説明が求められる医学的テーマと説明例
医学部小論文でよく出題される専門的なテーマと、それを平易に説明する例を紹介します。
テーマ1:「エビデンスに基づく医療(EBM)」
専門的説明: 「エビデンスに基づく医療とは、個々の患者ケアに関する意思決定において、入手可能な最良のエビデンスを良心的かつ明示的、適切に用いることである。」
平易な説明: 「エビデンスに基づく医療とは、個々の患者の治療法を決める際に、「なんとなく」や「経験的に」ではなく、科学的な研究結果(エビデンス)を重視するアプローチです。例えば、新しい薬が本当に効果があるかどうかは、感覚ではなく、大規模な臨床試験の結果に基づいて判断します。ただし、患者の価値観や臨床経験も合わせて考慮することが重要です。」
テーマ2:「サイトカインストーム」
専門的説明: 「サイトカインストームとは、免疫系の過剰反応によりサイトカインと呼ばれる炎症性メディエーターが大量に放出され、多臓器不全などの重篤な全身性炎症反応が引き起こされる病態である。」
平易な説明: 「サイトカインストームとは、体の免疫システムが暴走してしまう現象です。通常、体は外敵(ウイルスなど)と戦うために「サイトカイン」というシグナル物質を出しますが、時にこの反応が制御不能になり、大量のサイトカインが放出されます。これは火事を消そうとして水をかけすぎ、洪水を起こすようなもので、結果として体の各器官にダメージを与えてしまいます。新型コロナウイルス感染症の重症例でもこの現象が見られます。」
テーマ3:「生活習慣病」
専門的説明: 「生活習慣病とは、食習慣、運動習慣、休養、喫煙、飲酒等の生活習慣が、その発症・進行に関与する疾患群であり、動脈硬化性疾患、糖尿病、脂質異常症、高血圧などが含まれる。」
平易な説明: 「生活習慣病とは、毎日の生活の積み重ねが原因となって発症する病気の総称です。例えば、バランスの悪い食事、運動不足、ストレス、喫煙、過度の飲酒などが長年続くと、高血圧や糖尿病などの病気につながります。これらの病気は急に現れるわけではなく、長い時間をかけて徐々に進行し、気づいたときには重症化していることも少なくありません。予防には日常生活の見直しが最も効果的です。」
テーマ4:「再生医療」
専門的説明: 「再生医療とは、幹細胞等を用いて、失われた組織や臓器の機能を再生させる医療技術である。iPS細胞、ES細胞、体性幹細胞などを用いた細胞移植療法や組織工学的手法による組織・臓器の構築などが含まれる。」
平易な説明: 「再生医療とは、傷ついたり機能が低下した体の組織や臓器を、新しい細胞で修復・再生させる医療です。例えば、皮膚に大きなやけどを負った場合、健康な皮膚の細胞を培養して移植することで治療します。最近では、iPS細胞という「さまざまな組織に変化できる特殊な細胞」を使った治療法の研究も進んでいます。将来的には、臓器移植に代わる方法として期待されています。」
テーマ5:「ゲノム編集」
専門的説明: 「ゲノム編集とは、CRISPR-Cas9などの技術を用いて、DNA配列を特異的に切断し、遺伝子の挿入・欠失・置換などの改変を行う技術である。遺伝子治療や品種改良などへの応用が期待されている。」
平易な説明: 「ゲノム編集とは、生物の設計図であるDNAを、望みの場所だけ正確に書き換える技術です。これは、例えるなら分厚い本の特定のページだけを取り出して修正できるようなものです。従来の遺伝子組換え技術よりも正確で効率的であり、特にCRISPR-Cas9という方法の登場で大きく進歩しました。この技術を使えば、遺伝病の治療や、病気に強い作物の開発などが可能になると期待されています。一方で、倫理的な課題も多く議論されています。」
専門用語と平易な説明を組み合わせた小論文例
実際の医学部小論文のテーマについて、専門用語を適切に使いながら平易な説明も加えた例を紹介します。
例1:「予防医学の重要性」に関する小論文(600字)
予防医学とは、疾病の発生を未然に防ぎ、健康を維持・増進するための医学分野である。従来の「治療医学」が疾病の診断と治療に重点を置くのに対し、予防医学は病気になる前の段階に介入することを目指す。
予防医学は一次予防、二次予防、三次予防の3段階に分けられる。一次予防は疾病の発生自体を防ぐ取り組みであり、予防接種や生活習慣の改善がこれにあたる。例えば、子どもへの麻疹ワクチン接種は、重症化リスクの高い感染症を未然に防ぐ効果的な一次予防である。
二次予防は、疾病の早期発見・早期治療を指す。がん検診や特定健康診査などのスクリーニング検査がこれに該当する。例えば、大腸がん検診で便潜血(便の中に目に見えない微量の血液が混じること)を発見し、精密検査で早期がんを発見・治療することで、進行がんへの移行を防ぐことができる。
三次予防は、既に発症した疾病の悪化や合併症を防ぎ、機能障害を最小限に抑えることを目的とする。例えば、糖尿病患者の血糖コントロールは、網膜症や腎症などの合併症を予防する重要な三次予防である。
予防医学の重要性は、医療経済的側面からも強調できる。生活習慣病(不適切な食事や運動不足などの生活習慣が原因となって発症する疾患群)の増加により医療費は年々上昇しているが、効果的な予防戦略の実施により、この増加を抑制できる可能性がある。例えば、高血圧の一次・二次予防により、脳卒中や心筋梗塞(心臓の筋肉に血液を送る冠動脈が詰まり、心筋が壊死する状態)などの重大な循環器疾患を減少させることができれば、医療費削減に大きく貢献する。
予防医学の推進には、医療者による適切な指導だけでなく、地域社会や行政による健康増進の取り組み、そして何より個人の健康意識の向上が不可欠である。
この小論文では:
- 「予防医学」「一次予防」「二次予防」「三次予防」などの専門用語を使用
- 「便潜血」「心筋梗塞」などには括弧書きで簡単な説明を加えている
- 「スクリーニング検査」「生活習慣病」などには具体例を示して理解を助けている
例2:「先制医療の可能性と課題」に関する小論文(800字)
先制医療(preemptive medicine)とは、病気の発症前または超早期に介入し、発症や進行を防ぐ医療のアプローチである。従来の「発症後に治療する」という反応的医療から、「発症前に予防する」という能動的医療へのパラダイムシフト(考え方の大きな転換)を意味している。 先制医療の基盤となるのは、バイオマーカー(体内の生物学的変化を示す指標)の活用である。例えば、アルツハイマー型認知症では、症状が現れる10〜20年前からアミロイドβというタンパク質が脳内に蓄積し始めることが知られている。PETスキャン(特殊な放射性物質を用いた画像診断)でこの蓄積を早期に検出できれば、認知機能が低下する前に介入できる可能性がある。 また、遺伝子解析技術の発展により、疾患感受性遺伝子(特定の病気にかかりやすくする遺伝子変異)の検出も可能になっている。例えば、BRCA1/2遺伝子の変異を持つ女性は乳がんのリスクが高いことが知られており、この情報をもとに予防的な対策を講じることができる。 先制医療のもう一つの重要な要素は、ライフログ(日常生活に関するデジタルデータ)の活用である。スマートウォッチなどのウェアラブルデバイス(身につけられる電子機器)で心拍数や活動量を継続的に測定することで、健康状態の変化を早期に検知できる。例えば、心房細動(不整脈の一種)の発作を検出し、脳卒中の予防につなげる試みが始まっている。 しかし、先制医療には課題も多い。まず、過剰診断(健康に影響しない病変まで発見して不必要な治療を行うこと)のリスクがある。全ての異常所見が将来の疾患発症につながるわけではなく、不要な不安や医療介入を生む可能性がある。 また、遺伝情報による差別(遺伝的リスクに基づく保険加入制限など)の問題や、健康格差(経済状況により先制医療へのアクセスに差が生じること)の拡大も懸念される。 さらに、費用対効果の検証も課題である。先制医療には高度な検査技術が必要であり、全ての人に適用するには莫大なコストがかかる。限られた医療資源の中で、どのような集団にどの程度の先制医療を提供するかは、医療経済学的分析が不可欠である。 先制医療は、個別化予防(個人の特性に合わせた予防法)を可能にする画期的なアプローチだが、その実現には科学的エビデンスの蓄積と社会的合意形成が必要である。
この小論文では:
- 「先制医療」「バイオマーカー」「疾患感受性遺伝子」などの専門用語を使用
- 「パラダイムシフト」「ウェアラブルデバイス」などには括弧書きで説明を加えている
- 「アルツハイマー型認知症」「心房細動」などの疾患については、文脈から理解できるように配慮している
- 「過剰診断」「個別化予防」などの概念には簡潔な説明を付け加えている
専門用語を適切に使うための練習方法
医学部小論文で専門用語を適切に使いこなせるようになるための練習方法を紹介します。
練習法1:「翻訳」トレーニング
医学論文や専門書の一節を、一般の人にも分かるように「翻訳」する練習です。
手順:
- 医学関連の専門書や論文から短い段落を選ぶ
- その段落に含まれる専門用語をすべて抽出する
- 各専門用語について、一般の人向けの説明を考える
- 元の段落を、専門用語の説明を加えながら書き直す
例題: 「2型糖尿病患者におけるインスリン抵抗性の改善には、骨格筋における糖取り込みを促進する運動療法が有効である。」
「翻訳」例: 「2型糖尿病(血糖値を下げるホルモン「インスリン」の働きが弱くなる病気)の患者さんでは、体がインスリンに反応しにくくなる状態(インスリン抵抗性)が問題となります。この状態を改善するには、筋肉(骨格筋)が糖分を取り込む働きを高める運動が効果的です。」
練習法2:「段階的説明」トレーニング
同じ医学的概念を、異なる知識レベルの相手に説明する練習です。
手順:
- 医学的な概念(例:「免疫」「炎症」など)を一つ選ぶ
- その概念について以下の相手向けに説明文を書く:
- 小学生向け
- 高校生向け
- 医学生向け
例題:「アレルギー」について説明する
小学生向け: 「アレルギーとは、体が間違えて普通は害のないもの(花粉やハウスダストなど)を敵だと思ってしまう状態です。体が「敵が来た!」と大騒ぎするので、くしゃみや鼻水、かゆみなどの症状が出ます。」
高校生向け: 「アレルギーとは、本来無害な物質(アレルゲン)に対して免疫系が過剰に反応してしまう現象です。体内に入ったアレルゲンを異物と認識した免疫細胞が抗体を作り、これが肥満細胞などに結合します。再度同じアレルゲンが入ると、この抗体が反応して炎症物質が放出され、アレルギー症状が引き起こされます。」
医学生向け: 「アレルギーは、抗原特異的IgE抗体が肥満細胞や好塩基球上のFcεRIに結合し、アレルゲン再曝露時に架橋形成によって細胞内シグナル伝達が活性化され、ヒスタミンやロイコトリエンなどの化学伝達物質が放出されることで引き起こされる過敏反応である。Th2優位の免疫応答やIL-4、IL-13などのサイトカインがIgE産生を促進する。」
練習法3:「比喩創出」トレーニング
医学的概念を理解しやすい比喩で説明する練習です。
手順:
- 医学的な概念を一つ選ぶ
- その概念を日常的な物事に例える比喩を3つ以上考える
- 最も分かりやすい比喩を選び、説明文を書く
例題:「免疫系」について比喩を用いて説明する
比喩案:
- 免疫系は体の防衛軍である
- 免疫系は国境警備隊である
- 免疫系は建物のセキュリティシステムである
説明例: 「私たちの体の免疫系は、国の防衛システムによく似ています。まず、皮膚や粘膜は国境の壁やフェンスのように外敵の侵入を防ぎます。それでも侵入してきた細菌やウイルスは、マクロファージという巡回警官がパトロールして捕まえます。さらに、特殊部隊のような抗体やT細胞が特定の敵だけを狙い撃ちします。また、過去に侵入した敵の情報を記憶し、次回同じ敵が来たときには素早く対応する”記憶システム”も備えています。ワクチンとは、この防衛システムに”模擬訓練”を行わせるようなものです。」
練習法4:「専門用語辞典」作成
自分専用の「専門用語辞典」を作る練習です。
手順:
- ノートやデジタルドキュメントを用意する
- 医学関連のニュースや書籍を読んで、知らない専門用語をリストアップする
- 各用語について以下を記録する:
- 専門的な定義
- 自分の言葉による平易な説明
- 使用例文
- 定期的に復習し、小論文で適切に使えるようにする
記録例:
【用語】サルコペニア (sarcopenia) 【専門的定義】 加齢に伴う骨格筋量および筋力の進行性かつ全身性の減少を特徴とする症候群 【平易な説明】 年を取るにつれて筋肉の量や力が減っていく状態。単なる筋力低下ではなく、日常生活動作や生活の質に影響を及ぼす程度まで進行した状態を指す。 【使用例文】 高齢者のサルコペニア(加齢による筋肉量・筋力の減少)は、転倒リスクを高め、生活の自立度を低下させるため、早期からの予防的介入が重要である。
専門用語と平易な説明のバランスにおける注意点
最後に、医学部小論文で専門用語と平易な説明のバランスを取る際の注意点を整理します。
注意点1:読み手を想定する
医学部小論文を書く際は、評価者が誰かを考慮することが重要です。医学部の小論文では、医学の専門家だけでなく、国語や小論文の専門家が評価することもあります。そのため、医学の専門知識がない人でも理解できる文章を心がけましょう。評価者によって期待される専門性のレベルが異なることを念頭に置き、専門用語と平易な説明のバランスを調整する必要があります。
注意点2:専門用語の定義を統一する
同じ専門用語を文章中で複数回使用する場合は、一貫した定義や説明を用いることが重要です。説明が異なると読み手を混乱させ、理解不足と判断される可能性があります。
注意点3:専門用語の「連鎖」を避ける
「〜による〜のための〜」というように、専門用語が連続して使われると文章が難解になります。専門用語を使った後は、より平易な言葉で説明を続けるよう心がけましょう。
改善が必要な例: 「インスリン抵抗性によるメタボリックシンドロームの発症メカニズムには内臓脂肪からのアディポサイトカインの分泌異常が関与している。」
改善例: 「インスリン抵抗性(インスリンの効きが悪くなること)が、メタボリックシンドローム(内臓脂肪型肥満と関連する生活習慣病の集まり)を引き起こす仕組みには、内臓脂肪から出るホルモン様物質の異常が関わっています。」
注意点4:過度の簡略化を避ける
専門用語の説明を簡略化しすぎると、正確性を損なう恐れがあります。平易な説明でも医学的に誤りのない表現を心がけましょう。
改善が必要な例: 「動脈硬化とは、血管に脂肪がたまる病気である。」
改善例: 「動脈硬化とは、血管の内側にコレステロールなどの脂質やカルシウムなどが徐々に蓄積し、血管が硬く弾力性を失っていく状態です。これにより血管が狭くなったり、時に詰まったりして、様々な病気の原因となります。」
注意点5:専門用語の「装飾的使用」を避ける
内容の薄い文章を専門用語で飾ろうとするのは逆効果です。専門用語は、その使用が文章の内容理解に必要な場合にのみ用いるべきです。
改善が必要な例: 「医療のパラダイムシフトが進行する現代社会において、エビデンスベースドメディスンの重要性は言うまでもない。」
改善例: 「医療の考え方が「経験則重視」から「科学的根拠重視」へと大きく変化する中で、研究結果に基づいた医療(エビデンスに基づく医療)の実践がますます重要になっている。」
今回のまとめ
- 専門用語の適切な使用は、医学的知識のアピールと文章の精確性向上に役立つが、過度な使用は逆効果になる
- 専門用語は基本的(説明不要)、中級的(簡単な説明が必要)、高度(詳しい説明が必要)の3レベルに分けて考えると良い
- 専門用語の導入方法としては、「言い換え」「かっこ書き」「具体例」「比喩」「段階的説明」などの技術がある
- 平易な説明を心がけるべき医学的テーマとしては、「エビデンスに基づく医療」「サイトカインストーム」「生活習慣病」「再生医療」「ゲノム編集」などがある
- 練習方法としては、「翻訳」トレーニング、「段階的説明」トレーニング、「比喩創出」トレーニング、「専門用語辞典」作成などが効果的である
- 専門用語と平易な説明のバランスを取る際には、読み手の想定、定義の統一、専門用語の連鎖回避、過度の簡略化回避、装飾的使用の回避に注意する
次回予告
次回は「国立・私立医学部の出題傾向の違いと対策」について解説します。国立大学と私立大学の医学部では、小論文の出題傾向や評価基準に違いがあります。それぞれの特徴を理解し、効果的な対策を立てるための具体的な方法を学びましょう。お楽しみに!